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週に一回しか会わないから、チャンスがない。だから勝負は早く決めないといけない。
レオは帰り道もひまりを追いかけて、呼び止めた。元気はずっと背後にいて、レオを見守っている。ひまりはいつも一人での行動が多く、帰りも一人だったから呼び止めるのはラクだった。が、後が続かなかった。
「何?」ひまりが居心地悪そうに言う。このままでは逃げられてしまいそうだった。
「最初は電車で見て、友だちになりたいなーって思ってた」
ひまりはじっとレオを見る。レオは慌てて言葉を継いだ。
「いや俺、学校ってもんに行くのが慣れてなさすぎて、どうしたらいいのかわかんないんだけど、仲良くしてくれて嬉しい」
沈黙。
「なんか…どう言ったらいいのか…」
「付き合う?」
ひまりが言って、レオは思わず後ろを振り返った。聞こえてないはずだが、元気がガッツポーズをしている。レオはひまりの方に向き直った。
「はい」
レオが言うと、ひまりはふっと笑った。「もう帰っていい?」
「あ、ごめん。呼び止めて」
ひまりは歩き出し、レオは彼女の後ろ姿を見た。自分がどうして彼女に惹かれたのか、唐突に理解する。自分自身で歩いてるって感じがするからだ。
ひまりが止まり、レオを振り返った。じっと見ていたレオと目が合う。
「方向、一緒じゃない?」
「ああ」レオは足を踏み出した。「一緒に」
ひまりが待っている場所まで、レオも足を引きずりながら歩く。
追いついた時点で、ひまりがレオに合わせたスピードで歩き出した。
「ね、いいアイデアだね」
ひまりが言って、レオは「何が?」と聞いた。彼女との会話はついていくので精一杯だ。
「仲直りに握手」
「そうかな」
「うん」
「別に仲直りじゃなくても」
「え?」
ひまりが笑って、レオはこんなに笑う人だったんだと驚いた。いつもしれっと冷たい目で見られていた気がするが。
とはいえ、特にいつもと何も変わらず、他愛のない話をして電車に乗り、彼女が降りた。
「また来週」
ひまりが言って、レオは手を振った。心臓が飛び出しそうだった。
レオは電車のドアガラスにもたれながら、この死にそうな激しい鼓動は何なんだと思った。
初恋ってヤツか。
ヤバいな、俺。
レオはガタゴト揺れる電車で深呼吸した。
end.
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