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2.危蔽隊(きへいたい)
M&Aを繰り返し、日本一のAIロボットメーカーに成長したショーカソンロボティクス社。その中で、ロボットのメンテナンスを担当としているのが俊輔の所属している危蔽隊である。
危蔽隊は、一般客がAIロボットを持ち込めるように、本社工場の一階に、診療室を開いていた。
「ちょっと待ってくださいね」
俊輔は、持ち込まれたAIロボの首を外し、作業台の上に置く。
「ちょっと、あなた。完全には電源を切り離さないでくれる? ワタクシ、意識が消えちゃうのが怖いのよ」
作業台の上の女性型の顔が、俊輔に訴えた。体を動かす信号線はすでに遮断しているので、眼球と口しか動けないでいる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。少し眠っていただくだけです」
「いやだ! いやよ! 体を修理するなら、このまますればいいじゃない。電源を繋いだままの状態で……」
俊輔は、女性型AIの訴えを無視し、首に繋がる電力線のコネクタを引き抜いた。女性型の顔は、怒った表情のままフリーズした。
「もう一度、詳しく、症状を教えてくれますか?」
そう言って俊輔が振り返ると、パイプ椅子に座っていた女性型AIロボのオーナーが立ち上がった。
中肉中背の中年男性である。
男女の人口比率が崩れた昨今では、結婚できないこの手の顧客が八割を占める。
「昨日から、急に性格が変わっちゃったみたいなんです。料理も掃除も……家事を一切放棄して、私の言うことを聞かなくなったんです」
俊輔は、ベッド型の作業机に置かれた女性型胴体部の首元に手をあてた。風を感じる。まだ、動力源のあの装置が動いているようである。
俊輔は、首の断面に空いている二酸化炭素の吸気口にガムテープを貼って、穴を塞いだ。
「性格が変わってしまったということですね。他に、変わったところは無かったですか? 動作が緩慢になったとか、動かない部位があるとか」
「それは、ないです。動きに違和感はありませんでした。性格だけが、急に変わっちゃったんです」
「分かりました」
俊輔は、背筋を伸ばし、男性オーナーに向き合った。
「おそらく、CPUのシステムに、何らかの不具合が発生したのでしょう。ファームウエアを再インストールしますので、明日まで預からせてもらってもよろしいでしょうか?」
「さ、再インストールするんですか? 私との記憶とか、今までの思い出とか、消えてしまうんでしょうか?」
「それは大丈夫です、ご安心ください。メモリーは消去しませんので」
「そ、そうなんだ……よかった。じゃあ、元通りに治るんですね」
「はい。それより、念のために体の方に不具合がないか、確認してもよろしいでしょうか? 彼女の服を脱がせることになりますが」
安堵して緩んでいた男の頬がフッとおちる。表情の暗くなった男性オーナーがおもむろに口を開いた。
「やっぱり、そうですよね……。確認、必要ですよね……」
俊輔は、きっぱりと首を縦に振る。
「わかりました。じゃあ、そちらもお願いします。明日、引き取りに来ますので」
男性オーナーは、そう言って、とぼとぼと診療室を出て行った。
最新のAIロボは、極細ヒート線で全身の体温が均一になっただけでなく、特殊な樹脂の開発により皮膚の肌触りが画期的に向上したことで、人間と見分けがつかないほどの外観に仕上げられている。
ほとんどのオーナーが、人間に対するような恋心をAIロボに抱いていることは、俊輔もわかっていた。
俊輔は、首の無い胴体部に着せられたブラウスのボタンを外す。続けてスカートを脱がせ、ブラも取った。豊満な乳房が露わになる。
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