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15年前
水地 武史は目立っていた。
まずは見た目。高校1年の時から他とは違って見えて、ソレは他の男の子達より頭1つ分高い所にあれば、余計に目についてしまう。
そして、言動。言葉を最小限にしか交わさず、表情があまり変わらない。常にめんどくさそうに相手を見下ろし、言葉の代わりにため息や舌打ちで返事をする。そのくせ、しなくてはいけないことはしているから、先生からの評価がいい。近寄り難い武史を、誰もが良くも悪くも話題にしていた。
私は美術部で、モブで、地味にひっそりと高校生活を楽しんでいた。噂の「水地君」など、クラスが違えば芸能人と変わりない。
目を見て、見つめるなんてあるわけがなかった……高校3年生の最後の夏までは。
「先生……本気?」
「当たり前じゃない!美大の推薦枠なんて、東大並にハードル上がってのよ!!本気で行かなきゃダメに決まってるでしょ!!本気なら、モデルだって本気出さなきゃ!」
「だからって、本人めちゃくちゃ嫌がってるじゃないですか!」
「嫌がってない!!先生が本気で口説きおとしたんだから!!大丈夫!!堤さんは課題のことだけ考えて!!」
武史の右腕を掴んだままの顧問に説得されて、夏休みの美術室で2人っきり。
モブには過酷すぎる。息を吐くことすら出来なくなって、静まり返った部屋に響いた武史のため息は本当に耳に刺さったかと思った。
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