15年前

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美術室の真ん中で、舞台のように用意されたワンセットの机と椅子に、武史は放課後の1時間だけ座って本を読んで帰る。それだけで美術の課題の点数の底上げを約束されていた。 会話なんてない1時間。 武史より早く来てこの舞台を作り上げ、前日の修正をしながら待つ。教室の扉が開いても、墨が紙を擦る音と、ページが捲られる音以外は聞こえることは無かった。1時間、目に焼きつけるように線を引きまくり、彼が立ち去った後も誰もいない空間を見つめながら帰りの時刻まで描き続ける。そんな日々が繰り返され、それが日常になりかけた時だった。 あと少しで夏休み。 あと少しで完成。 あと少しで解放。 そんな浮かれた気持ちが、神様にバレたのかもしれない。もしかしたら、気づかなかったが何かしらのフラグでも立っていたのか!?と思ってしまったほど、急に、脈絡もなく事件が勃発してしまった。 放課後の誰もいないはずの美術室に、私より先に武史が来ていて、キャンバスの横にある机でデッサンノートを捲っていた。 デッサンノートは直ぐに自分のものだと分かる。固めの紙が捲られる音だけが、やけにハッキリと聞こえる。 「……なんだよ。これ……」 パラパラと捲られて、音が途切れる。描かれている物を、ゴキブリでも見るかのように頬を引き攣らせて、グシャリとページを握りつぶした。 「キモイんだよ。お前……。そーゆう目で勝手に見やがって。好かれて悦ぶとでも思ってんのかよっ!」 デッサンノートを床に投げつけられて、戸惑いから後ずさる。もともと顔立ちが整っている武史が、感情を露わにして瞳を揺らして睨みつける姿は、西日に差し掛かった黄ばんだ光に当てられて、目が離せなかった。 「俺は単位と引き換えにここに居るだけで、勝手に盛り上がられてもキモイんだよっ」 でも、駄目だ。 「…っふふっ」 堪えられずに吹き出して、慌てて口元を抑えるが……堪えきれない。 「……や……やばっ。勘違い……乙」 苦しそうに笑いを押し殺し、膝をついて蹲る私を見て、武史の時は止まってしまった。
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