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「ん?」
ぼやけた視界で外を見渡してみても、そこには見覚えのない風景が広がっていた。
いつの間にか寝てしまっていた様だ。
「なんだ着いたのか?」
意識がしっかりと覚醒してから、改めて外を確認してみても、やはり知らない土地である。そして、運転手を視ると、彼は所在無さ気にしていた。
「…………あの」
まぁそんなことはどうでもいいのだ。
問題は私の祭りが何処に行ったのか、ということだ。
「おい、ここはどこだ?」
「…………えと、あの」
だが、祭りを味わう為にも、
今現在、私達が何処にいて、どうなっているのかを確かめる必要がある。
「答えろ」
多少の怒りが湧くも、努めて冷静に問う。
当然、運転手の歯切れは悪かった。
「すいません」
「なぜ謝る?」
苛立ちを隠さず、再び尋ねた。
「あの、勿論、費用は一切いりません。ご不満でしたら違約金という形で…………」
「そうではない、ここは何処かと聞いているんだ」
「あ、あの……はい。あの此処は〇×県の△◇市です」
諦めたように運転手は言う。
「では今何時だ」
「えーと……__時です」
最早、聞くまでもない。
コイツは何かを間違えたのだ。
勘違いしたのか。何かトラブルがあったのか。
まぁ原因はどうでもいい。
兎も角、大事なの事は、今年、私は祭りに参加できないということだ。
「なるほど」
「あ、あの」
「ん?」
「で、できる限りのことはさせて頂きますので」
うむ。私の方針は決まった。
だから、問題は無い。怒りも苛立ちも全て無くなった。
私の心は今、とても晴れやかだ。
そうだ。今年は、いや今年からは、自ら開催すればいいのだ。
「大丈夫だ、心配するな。怒ってない」
私の言葉を聞き、運転手の表情はパッと明るくなる。
「先ず、ホームセンターに行ってくれるか」
「も、勿論です」
役割を得た彼には、笑顔も視られた。
彼は若い。きっと今年の肉の味は、格別なものになるだろう。
どんな味がするのか今から楽しみだ。
「その後はキャンプ場に頼む」
キャンプ場という言葉には少々怪訝な顔を見せるが、
私の態度に安心したのか、はいと勢いよく返事をすると、
彼は車を走らせ始めた。
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