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それ以来、本多は「実践理性批判」を肌身離さず持ち歩き、老人が乗車してくれば今だとばかりに立って席を譲ってやり、コンビニの募金箱を見つければ千円札をねじ込んだ。そんなある夏の日、地域のボランティア活動でゴミ拾いをやっているというので、チラシに書いてあった公園に行ってみることにした。
自転車で数キロ走った先にその公園を見つけるが、早朝だったためか予想以上に閑散としている。まだ誰も来てないらしい。仕方なくゴミ袋を広げゴミ拾いを始める。一個。二個。ペットボトルやタバコが沢山落ちている。そして二十個くらい拾った時、誰にも見られていないことを虚しく感じる。周辺は柔らかい風に揺られる木々の音がするばかりで、人の気配が全くしなかったのである。「カントは言っていたぞ。意志にのみ従うのが道徳的なんだと。俺は誰にも見られていない。今ゴミを拾っても何の社会的評価もない。だからこそ、俺はこのゴミを拾うのだ」カントに励まされ、本多の不安は払拭された。残りのゴミも拾って、近くのゴミ捨て場に投げ捨てた。ふうと一息つく。「なんだろう、この清々しさは。俺はなんて道徳的なんだ!」本多はパッパとあからさまに手を叩いた。木々を揺すっていた生温い風に吹かれながら自転車を漕いで家へ帰った。
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