#6 再訪

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 遠方に視線をやると、銀色のアドバルーンが見える。俺は靴先で地面に「の」の字を描くようにした。雑草の葉が毛並みを撫でられたように傾き、また直る。ぱらぱらと土が散るが、刺激的な変化はなかった。もっとも、足元では土竜同士の戦争が繰り広げられているかも知れない。    空を見ると、塊からはぐれたような雲があった。辺りを吹く風が、会話の間を取り持つようにひゅうひゅうと鳴っていた。靴の細かい位置をずらすと、枝が小さく軋んで音を立てた。  そんな風に過ごしていると、遊歩道の入り口の方向から人の姿が見えた。木の上部へ目をやった。情報屋は「静かに」と手で形を作っていた。    男は肩幅が広く、陶板が厚かった。大股で、一歩ごとに身体の大きさが増しているように感じられた。まるで券売機の前に立つようにして、俺の至近距離まで近付いた。それから「友人と、はぐれてしまって」と言った。 「いつも帽子などで顔を隠すようにしているのですが、見掛けませんでしたか?」と男は更に続けた。状高な態度を隠すように、明るい声を出そうと心掛けていたのか、しかしそれは失敗していた。    俺は男の視線を引き受けた。「いいえ」と一言で答え、情報屋のアクションを待った。 「本当に?」と男は食い下がったが、俺も否定を重ねた。あまり彼の言葉が入って来なかった。そのかわり俺は雲を見ていた。輪郭がはっきりとしない雲だった。そういう雲なのか、俺の目が霞んでいるのか、判然としなかった。ただ視線を下げると、男の像が、嫌という程、くっきりと捉える事が出来たので、存在の曖昧な雲だったと分かった。    
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