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「さあ行こう、一人前になる前に雲編の方にお目通しいただけるのは前代未聞だ。お前の実力を評価してくださっている、喜ばしい事だ」
「……」
先生は嬉しそうだ。僕のことを自分のことのように喜んでいる。
僕は。……僕は、どうなんだろう。嬉しいかな? わからない。何をどう評価されたのかわからない。まだまだ半人前なのに。
「先生、ここには必ず一人残らなければいけないです」
「雲編の方のご尽力があるから今回は大丈夫だよ」
差し出された手を、僕は。
取らなかった。
「僕はここに残ります」
「雲編の方に失礼だ、お叱りを受けるよ」
「その時は僕一人で赴き、どんな罰も受けます」
「雨人の品位を落とすつもりか」
「僕だけが愚かなのだとわかっていただけるよう申し開きします」
先生は眉間に皺を寄せて僕を睨みつける。先生のこんな顔は初めて見る、本当に怒っているようだ。でも僕は怖いという感情はなかった。先生はいつも穏やかにほほ笑んでいて、その微笑みの中で道理やしきたりを説いている時の方が恐ろしく感じることがある。怒らない、感情的にならないからこその先生の偉大さと恐ろしさ。
「僕は雨人です。しきたりを守り、雨を降らせる人。誰かに評価してもらい、決まりに例外を求めたりはしません」
先生はまだ何か言おうとしたようだが、僕の考えが変わらないと見ると僕に向かって手を向ける。
「困った子だ、どうしようもないね。そんな子はいらないな」
「はい、ごめんなさい」
頭を下げて謝ると先生は大きく舌打ちをした。そんな素行の先生初めてで、とんでもなく怒っているのかなと頭を下げ続ける。
すると、ぽん、と僕の頭に手が乗った。驚いて顔を上げれば、僕の右側に先生が立っていて僕の頭を撫でる。
目の前にいた先生はいない。いつ横にきたのだろう、と訳がわからず先生を見ると先生は柔らかく微笑んだ。
「よくその答えを言えたね、偉いよ」
「先生?」
「アレは蜘蛛雲だ、まさかこんな日に現れるとは」
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