鈴木和輝

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鈴木和輝

   「起きろ。」  夜勤のバイトを終えて帰宅後、そう友だちの頭を叩くのは久しぶりだった。何せ俺が叩いた海斗(かいと)は、朝方の鏡だから。目覚ましにセットしたらしい携帯のアラームがクッションの下で小刻みに震えながら鳴いていたのが耳障りで、俺はそうした。  「はっ!今何時!」  「朝の七時(ななじ)前。」  「うおおおお!!俺のランニング時間がああああ!!!」  寝落ちしていたソファから転げ落ち、脱ぎ癖のある全裸の海斗はあたふたを隠さない。    「落ち着け。ちょっとなら時間あるやろ。」  「ねぇよ!!俺ぁ朝海みなきゃスイッチ入んねぇんだよおおお!!!」  そう、泣き顔の海斗は俺の肩を揺さぶった。  「とりあえず服着ろや。」  俺の言葉で自分がまっ()だと気づいた海斗は再び騒ぎ声を上げる。  「何~?朝からうるさいんだけど。」  そう自分のスペースから顔を覗かせたのは、恐らく海斗の声で起きただろう梨華(りか)だった。  「アタシの五分返してよ。」  眠られる時は一分でも大事にする梨華は、目覚ましより早く起こされたことに苛立っているらしい。  「てか、おかえり。」  寝起きの気怠さの中カウンターキッチンに向かいながらも、梨華はちゃんと俺にそう声をかけた。  シェアハウスを始めて数ヶ月。  未だに友だちにかけられる日常のかけ声に慣れずにいる。
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