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「梨華ぁ~、私もコーヒー欲しい。あ、おかえり和。」
そう言って自室から出てきたのは、富子だ。俺は返事の代わりに右手を上げる。
「はいはい。ふーこも海斗に起こされた?」
「そう。珍しいね、寝坊なんて。昨日飲んでたから?」
「多分それが原因。ふーこは何時に寝たの?」
「ついさっきまで描いてた。締め切りがあるやつまだ終わってなくて。丁度いい目覚ましだったかも。」
そう言って富子は、梨華に入れて貰ったコーヒーに口をつけた。
「熱っ」
「ちゃんとふーふーしなよ」
海斗と梨華はこの春から社会人で、富子は絵の専門学生だ。恐らく課題か何かがあるのだろう。
対する俺は三人とは違い、大学卒業後からずっと無職だ。今はバイトを掛け持ちして生活費を稼いでいる。
「そうだ。前から思ってたんだけど、和もうちの学校来なよ。」
梨華の隣に並んで立ちながら、コーヒーをすする富子は俺に言った。
「何で?」
「やっぱりさ、実際色々やってみないとやりたいことってわかんないじゃん?だから和も絵初めて見たら?と思って。」
「そんな金ない。」
富子の家は金持ちで、専門学校の学費なども親が払っている。だから富子はお小遣いを稼ぐ程度のバイトはするものの、殆どの時間を絵に費やしている。
「じゃあ、趣味でもいいんじゃない?ね?梨華。」
「確かに、和の絵って見たことないなぁ。描けんの?」
「おまえ馬鹿にしてるやろ。」
ふざけて挑発してきた梨華に言い返すと、二人はたちまち笑い声を上げる。
実際、絵などは中学の授業で描かされたのが最後だ。きっと画力は壊滅的だろう。
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