鈴木和輝

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 時間が来、仕事に出て行く海斗とスーツをまとった梨華。二人が出て行くと家の中は特段静かになる。  富子(ふうこ)は提出物を仕上げに、再び部屋に籠もっている。俺はダイニングのソファで横になり、携帯をいじっていた。    俺自身みんなについてここに来たのはやりたいことが見つからなかったからだ。そもそも和歌山の田舎町から出て他県の大学に入ったのも、他の場所に行けば何か見つかるかも知れないと思った結果だ。  そんな目論みは気づけば虚しく終わり、結局何も見つからないまま俺は就職活動を迎えた。ただ過ぎていく時間に身を乗せていただけで何かを得られる訳もなく、どうしたものかと頭を悩ませていた時、大学入学後すぐに知り合い仲良くなったその三人がシェアハウスを考えていた。これだと思った俺は逃げるように三人に便乗した。都会に出れば何か刺激を受けるかも知れない、と。  だがバイト先と家を往復し、連れ出されなければ家を出ない俺にとって、そんなものを受ける機会などあるはずもない。きっとここに来たのは、こんな俺を(とが)めないみんなとずっといられるという甘い考えからでもあったのだろう。  今になってそれに気づいている俺もいた。
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