撤退戦

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 この時代の戦車は、火力と装甲で部隊の要となることが旧時代以上に要求されている。TAという機動力、突破力に優れた兵器の登場により、それを火力と装甲で防ぎ、撃破するための兵器として在ることを求められたのだ。  そのため、大型化してより多くの火力を投射できるようにしたのは勿論、ミサイル車両の能力も一部付与――特に『辺境連邦』の場合、物資や人の数でどうしても劣るため、機能集中せざるを得なかったのだ――されている。  兵士を随伴しつつ、前に出る『辺境連邦』の戦車『カーイト・ベイ』。  全身に備えた副砲でウィルたちを攻撃・牽制しつつ、主砲とミサイルでTA部隊に攻撃しようとしていた。  砲撃を避けるため、一度後退したウィルたち。だが戦車の動きを見た彼は、このままではまずいと直感、後方の味方に怒鳴りつける。 『おい、こっちの戦車はまだ来ねえのか⁉ このままじゃウチのTA部隊が狙い撃ちされるぞ‼』 『無茶言うな‼』  しかし通信相手、この戦線の指揮を任された『指揮官型』も、ウィルに負けない勢いで怒鳴り返してきた。 『こっちはさっきからミサイル攻撃が激しくて、とてもじゃないが前進できるような状況じゃない!』  『ッ、そっちはそんなにひでえのか?』 『ああ。どうやら位置がバレたらしくて、次から次へと飛んで来る――』  その時、一度通信が乱れた。いきなり何だと思ったウィルだが、彼らの状況を思いだして『大丈夫か⁉』と聞く。  数瞬の間の後、ようやく応答があった。 『大……丈夫だ。迎撃システムも生きてるし、そこまで被害は出てない。だがそっちに戦車を寄越すには、敵の攻撃が途切れるのを待つしかないだろう……』  重々しく言う『指揮官型』。続けて彼は、『この際だ』と言う。 『いっそ、お前たちが一度下がるのはどうだ? こちらと合流すれば、敵との火力だって互角になる。逆襲のチャンスだって』 『分かってる!』  話を遮るように、ウィルは声を荒げた。 『それは俺だって分かってんだ! だが今こいつらを倒せなかったら、後続と合流されて戦力を増強される! ショウだってまだ来てねえし、このままなら数で押し込まれるぞ‼』 『ッ……なら、どうするつもりだ⁉ 無茶をしてでも、戦車を寄越せと⁉』 『……いや……』  少し考えたウィルは、 『無茶をするのは……俺たちだ』  そう言った後、通信を切る。彼は部下達に向き直った。 「お前らにはすまねえとは思う。だが、敵が戦力を揃えてねえこの機会を、逃すわけにはいかねえ――だから、無茶を承知で言うぞ」  一度言葉を切り、 「今から、奴らに仕掛ける。いいな」  ウィルは、言い切る。彼の顔は部下に無茶を押しつける申し訳なさと、それでも成さねばならないという覚悟で歪んでいた。  そんな彼に部下たちは、一様に頷く。 「大尉、そんな顔をしないでください。ここで奴らを叩いておかなければまずいというのは、俺達だって理解してます」 「TA部隊を見捨てるわけにもいきませんし、今ここで踏ん張れるのは、俺たちしかいない。なら、やるまでですよ」 「それに、隊長からこの戦線を任された以上、少しくらいは活躍しておかないと。そうでしょう?」  部下の一人が、わざとおどけた様に言う。ウィルは苦笑し、「そうだな」と言った。 「『北極星』の活躍が、ショウ一人のものだって言われんのも癪だしな――俺らも少しくらいは戦果を上げなきゃ、こいつの名折れってもんか!」  強化外骨格にプリントされた部隊章。それをウィルは小突き、自身の得物、ガトリング砲を持ち上げる。  ウィルたちは駆けだした。彼らの目的は、敵戦車『カーイト・ベイ』の側面。  その左右は『ハンニバル』の部隊によって守られているが、それらは『サンライズ』部隊の相手で手一杯の様子だ。チャンスは十分にあると、ウィルは読む。  だが、障害はまだある―― 『レナ!』  彼は後方の同僚に呼びかける。 『少しだけで良い。俺たちの支援、頼めるか⁉』 『はあ⁉ 今こっちは、TA部隊の援護で手一杯なんだけど⁉』 『それでもだ! 今から俺たちは、敵戦車の側面に回り込む‼』 『ッ⁉ まさか、アンタ……!』 『そのまさかだ! 敵スナイパーへの対処、任せたぞ‼』 『ちょ、ちょっと待てっての! 戦車の周りには兵士も多いし、ここで突っ込んだら――』  ウィルは、そこで通信を切る。レナは憤慨した様子で、「あいつ、切りやがった!」と言った。 「こっちはこっちで手一杯だってのに! ……ああもう、仕方ない!」  彼女は数人の『狙撃型』に呼びかけ、自分と共にウィルたちの支援に回ることを指示。最適なポジションに移動し、狙撃銃を構えた。  ――攻防が、始まろうとしていた。
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