撤退戦

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 ウィルたちは進む。  戦車の側面に回るために戦場を大きく迂回する必要があり、彼らは全速力で荒野を疾駆していた。……しかし、 「ッ、こんな所で……!」  舌打ちして言うウィル。彼らの前に立ち塞がったのは、ウィルらと同じ『突撃型』の部隊。  どうやら、彼らもウィルと同じことを考えていたようだ。『太陽同盟』のTA部隊の側面に回り込もうとし、ウィルらと鉢合わせたのだろう。  戦闘を避けるのは不可能と判断するウィル。彼はガトリング砲の銃口を、敵部隊に向けた。  数え切れない量の弾丸が、荒野を行き交う。『突撃型』の部隊同士の戦いは、歩兵のそれとは思えない激しさを見せていた。  前述したように『突撃型』の防御力、攻撃力は対機動兵器を想定している。そのため纏う強化外骨格の装甲は、小銃は勿論機銃や榴弾にも耐える強度があった。  加えてウィルの使うガトリング砲に代表される大型兵器の運用も可能で、機動兵器をも倒せる火力があるとなれば、戦いが激しくなるのも当然と言えば当然と言えただろう。  そんな銃火吹き荒ぶ激戦の中、ウィルは、 「おらああああああああああああああああああああああああ‼」  雄叫びを上げて自身の得物を振り回し、銃弾の嵐を敵部隊に浴びせていた。  彼の持つガトリング砲は威力が高く、例え『突撃型』の強化外骨格でも立て続けに受ければ破損は免れない。  敵部隊は咄嗟に散開。機銃から逃れようとする。そこにウィルの部下が進み出て自身の得物、彼の身長並の大きさがあるグレネードランチャーを発砲。爆発がそこかしこで起きて、敵部隊の動きを阻害した。  その様子に、ウィルは今だと直感。僅かなやりとりの後、突撃を仕掛けた。  突然の動きに敵部隊は戸惑う。しかし彼らはすぐに戸惑いを振り払い、銃口をウィルらに向け、その頭が弾け飛んだ。 『――全く、いいタイミングで仕掛けてくれるぜ』  次々に頭が弾け飛んでいく様を目にしたウィルは、ニヤリとした笑みを浮かべ、 『レナ!』  後方にいる同僚に、賞賛の声を送った。 『そんなこと言ってる暇があったら、さっさとそこを突破して‼』  もっともそう言われた彼女は、あまり嬉しそうではない。むしろ焦りや不機嫌さが滲む声で、ウィルに返す。 『敵の狙撃手も、今ので多分私たちに気付いたわ! ここからは、そっちの対処に回らないと――ちょっと待って‼』  喋っている途中、レナの声に切迫したものが混じる。彼女の視界には飛ばしたドローンから送られた、敵戦車の姿が映っていた。 『敵戦車に、動き……対歩兵用のミサイルサイロが動いてる……ウィル!』 『……ちょうど、こっちでもロックされたって警報が鳴りやがった。となると』  数瞬の沈黙が落ちる。その直後、音速に迫る速度で、数十にも上るマイクロミサイルが飛来した。  ウィルらはすぐさまジャマーを起動。電子妨害でミサイルの動きを阻害しつつ、強化外骨格の出力を最大まで引き上げる。  ジャンプ。十メートルにも及ぶ距離を一息に跳ね上がってミサイルを避け、かつ、ガトリング砲で残る敵部隊に銃弾の雨を降らせた。  その間にもミサイルは次々に爆発し、退避が遅れたウィルの部下がそれに巻き込まれ、断末魔を上げる暇も無く命を落としていく。 「ッ……」  それを見た、ウィルは歯を食いしばる。感傷など、戦場では邪魔なだけ――彼は今己がやらなければならないことを、知っていた。  撃つ――撃ち続ける。己の体が動く限り、銃弾がある限り撃ち続けて敵部隊の排除と牽制を行い、彼らの目を自身に引きつける。  その間に部下の何人かが突出。敵戦車、『カーイト・ベイ』を視界に収めた部下たちは背に担いでいる携行式のミサイルランチャーを構え、発射した。  飛び出したミサイルは二つの軌道を描いた。一つは高く飛び上がり、一つは地表スレスレの高度で飛ぶ。  『カーイト・ベイ』は二つの軌道で迫るミサイルの対処にジャマーを起動。続けて迎撃ミサイルを発射し、ジャマーによって動きが乱れたミサイルを撃ち落とす。だが連続して発射されたミサイルは次から次へと飛来して、『カーイト・ベイ』に接近する。  最後の砦として、CIWS(近接防御火器システム)を掃射。弾幕により、上空から迫るミサイルを全て撃ち落とした。しかし地上を這うようにして接近するミサイルの方は、対処が間に合わない。迎撃用ではない副砲まで使うもミサイルは進み続け、そして。  ミサイルが、戦車に直撃した。
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