『子供達』の戦場

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 降り注ぐ弾丸の嵐。ショウに接近していた敵兵は瞬く間に肉塊にされた。やがてショウの傍に、一人の兵士が砂煙を上げながら駆け寄って来る。 「ショウ、大丈夫か⁉」 「ああ、大丈夫だ。いいタイミングで来てくれたな、ウィル」 「当たり前だろ、俺とお前の仲だからな!」  陽気な声を上げるウィルと呼ばれた兵士。彼の顔立ちはごつごつとして厳めしい。だが短い金髪と明るい声に似合う大きめな双眸を持ち、口には戦闘中にもかかわらず満面の笑みが上っていた。  それらの要素に彼を見る者は顔立ちのことなど気にせず、ただただ明るいという印象を抱くだろう。だが彼の場合見るべきものは他にある。2mを超す体躯と、その強化外骨格だ。  彼の巨躯は頑強な筋肉で覆われており、強化外骨格も体に合わせて大型化されている。大型化されたそれはより大きなパワーと強固な装甲を実現しており、普通の兵士では扱えないような武器も装備することを可能としていた。  『突撃型(アサルトタイプ)』――ウィルは対機動兵器用の歩兵としてデザインされた『子供達』で、肉体の頑強さと身体能力を限界まで高められている。『突撃型』は歩兵用の大火力兵装の運用も任されており、運搬兵(キャリアー)という別名でも呼ばれていた。 「ショウ、俺の後ろにいろ! すぐに片付ける‼」  そう言った彼はショウを庇うように前に出て、自身の体躯程の大きさがあるガトリング砲を振り回し、敵部隊に向けて弾を吐き出させる。  浴びせられる銃弾の雨に逃げることしかできない彼らだったが、逃げる間にも一人、また一人と倒れていった。  だがこれは、ウィルの手によるものではない―― 『ショウ、大丈夫⁉』  ショウの頭の中に響く女性の声。脳内のナノマシンによる短距離通信だ。  そしてショウはその声の持ち主、自分やウィルを助けた『狙撃型(スナイパータイプ)』――狙撃に必要な集中力と自制心、手先の器用さを高めるよう調整されたタイプ――の『子供達』の名を知っていた。 『レナ、君も来てくれたのか』 『当然でしょ⁉ あんた一人で敵を引き付けてるって聞いた時から、心配で仕方無かったんだから!』 『……そうか。心配かけて、すまなかった』 『ッ……ううん、無事だったならいいわ。それに謝るなら、他の皆にもよ!』 『そうです、隊長!』  別の声が割り込む。ふとショウが顔を上げると、8人の兵士が彼に近づいて来ていた。  彼らはショウの近くまで来て、内一人が進み出る。均整のとれた肉体と赤い髪を持ち、幼さの多分に残る顔立ちをした少年兵だ。しかしその顔は引き締まっており、ハキハキした口調と相まって真面目そのものといった雰囲気を纏っている。  『兵士型(ソルジャータイプ)』。命令への従順さと均整の取れた肉体とで、理想的な兵士としてデザインされたタイプだ。そんな『兵士型』の彼も、ショウが知っている顔だった。 「ロウ、お前まで……」 「僕たちの隊長はショウ中佐、貴方だけです! 貴方が死んだら、僕らはどうすればいいんですか⁉」 「……代わりの隊長が来るだけだ。お前達ならどんな奴の下につこうと、やっていける……」 「話をすり替えないで下さい!」  ロウが、ショウの肩を掴んだ。 「僕は、貴方が死んだら嫌だという話をしてるんです! 破壊された貴方のTAを見つけた時、僕らがどんな思いをしたか分かりますか⁉」 「ッ……」  真っ直ぐな言葉が、ショウの胸に突き刺さる。  俯くショウ。ロウは彼の様子に声の調子を若干落としつつ、続けた。 「隊長がそうせざるを得ない状況だったのは知ってます――合流中だった部隊が敵の奇襲を受けて、僕らの中で駆けつけられるのがTAに乗った隊長だけだったことも……それでも僕は、貴方に生きていて欲しい……無茶なんか、して欲しくないんです……!」 「……その部隊を見捨てることになったとしても、か?」 「はい」  迷いのない回答。その愚直さに、ショウの頭は増々項垂れる。  自分はロウたちに慕われるようなことなどしていない……そんな申し訳なさから。そしてもう一つ、例え自分たちが作られたモノであったとしても、自分たちの間にあるものは作り物などではない……そう思わせてくれることの、嬉しさから。  だがそれらの想いの裏で、どうしても浮かんできてしまう想いもある。 (どうせ俺たちは、作り物――作った連中に弄ばれる、オモチャでしかない……)  そんな、想い。ショウの中に積もった絶望が、そう囁いてくる―― 『ショウ、まずいわ!』  その時、レナの声が響く、物思いに耽っていたショウは慌てて気を取り直し、どうしたと問う。 『近くに、TAを伴った部隊がいる! しかもそいつら、こっちに向かって来てるわ!』 「ッ、さっきの偵察部隊が呼んだ奴らか!」 「どうする、ショウ!」  荒野を鋭く見回しながら、ウィルが聞いてくる、 「さっきの奴らは片付けた。APC(装甲兵員輸送車)も持って来てあるし、急いで呼びつけりゃあそいつらの相手はせずに済むかもしれねえぞ?」 「……いや。TAの機動力ならAPCにも簡単に追いつける。今APCを呼んだとしても、確実に間に合わない」  ショウはウィルの提案に首を振る。  TA――Trace Armament(トレース・アーマメント)。全高4、5m程の大きさの人型兵器だ。  この兵器は人型ゆえの汎用性と跳躍による三次元機動により、この時代の陸戦での花形兵器となっている。  一般的な戦車よりも1m程全高が高いために被弾しやすく、装甲の厚さや火力でも戦車に一歩劣るとされているものの、前述の特性によって総合力の面で勝ると評価されていた。  ショウの言葉は、彼自身がTAの操縦士であることからくる確信であった。それを踏まえた上で、彼は言葉を続ける。 「そうでなくても連中、俺のことに気付いてるんだろう。そんな奴らが簡単に見逃してくれるとも思えない。ここで戦うのが、俺達にとっての最善だと思う――」  そう言った少年は、顔を上げる。  絶望にも葛藤にも一度蓋をした彼は、今自分がすべきことのために問うた。 「皆――いけるか?」  果たして、その答えは 「勿論!」 『当然でしょ、ショウ!』 「言ったでしょう? 僕らの隊長は貴方です――命令して下さい、隊長。そうやって、僕らは生きのびてこれたんですから!」  ウィル、レナ、ロウが言い、他の者も口々に了承の返事をする。  そんな彼らに微かな笑みを零したショウは、すぐに表情を引き締めて立ち上がった。 「分かった――全員、ナノマシンを活性化させろ。同時に補助AIも俺のものに同期。以後はナノマシンを介した短距離通信のみで、意志疎通を行う」  そこまで言ったショウは一度言葉を切り、続ける。次に言う言葉が、どれほど困難なものなのかを知った上で。 「生き残る……皆で、生き残るんだ!」 「「「「了解!」」」」  再度の了承の返事が、ショウの内に木霊した。  ショウ――『指揮官型(コマンダータイプ)』。脳機能、特に情報処理能力と判断力を強化されたタイプ。  生まれながらの指揮官として作られた彼は、仲間と共に生き残るために自身の小銃を持ち上げた。
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