本編。

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本編。

――小さい頃、家の暖炉の前でボクはおじいちゃんにある伝説の話を良く聞かされていた。そして、ボク達が生きている存在とその役割りと運命を話していた。おじいちゃんはボクに「勇者の伝説物語り」の絵本を読み聞かせ、「いいかいアルム。お前はいつか立派なモブキャラとして勇者様に使えるんだぞ!」と話していた。  そうボクはモブキャラだ。主人公じゃない。どんなに頑張っても逆立ちしても勇者にはなれない。どんな物語りにも主人公は一人じゃないといけないし、絶対になれない。僕達モブキャラは物語りに何万といても主人公は一人しか存在してはいけない。モブキャラには「主人公」の座はまさに手に届かないような憧れの存在だ。  この世界には勇者はまだ生まれない。だから、この世界に生きてるモブの人達は、勇者が現れるまでひたすらモブの役割りを果たして生涯を遂げる。それには意味すらない。意味が生まれとすれば、それは勇者が誕生日して現れる時に、それぞれの意味と本当の役割りを遂げることができる。そして、ボクの居る村も、モブの住人としてのそれぞれの役割りに務めていた。あそこの岩に座っているおじいちゃんは、生まれたと時からずっと岩の前で座っている。ただ座って休んでるんじゃない。モブキャラとしての役割りを彼は果たしているだけだ。そんなおじいちゃんの役割りは勇者が村に来た時の村案内の村人役だった。彼には台詞もちゃんとある。 「おやおや、そこの若者。見かけない顔じゃな。こんな辺鄙な村に何しに来たんじゃ?」 「おお、そうかい。村長ならこの奥じゃぞ。」  これが彼に与えられた台詞と役割りだった。岩に座って休んでるおじいちゃんは、毎日あそこの岩に腰を降ろすと同じ台詞を呪文のように繰り返し唱えて、その時の為に備えている。まさにモブキャラが目立つのは勇者が来た時だ。その時まで、みんなそれぞれの役割りと台詞を頭に叩き込んでいた。  モブキャラは一瞬の煌めきのような儚さだと、父は前にボクに語ったけどまさにそのとおりだ。その父の役割りは勇者の前で豪快に薪割りして「そこのお前さんが勇者だと? どうみてもひよっこじゃないか。それならこの俺と勝負をしろ!」というのが父の役割りと台詞だった。  父はその瞬間が訪れる日まで、来日も来日も、毎日豪快に薪割りをしていた。まるで何かに取り憑かれたように、一心不乱に薪割りをして毎日を終えていた。そして、薪割りをし過ぎてついには体を壊した。
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