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僕は仕事に出かける日よりも早起きをし、急ぎ足で○○駅へと向かった。
○○駅には大きな公園があった。
有名な大学病院の近くに位置する、緑がいっぱいの都市公園。
あの子は、この近くに住んでいるんだろうか。
そわそわと足を揺すって、僕は公園に置いてあるベンチに早朝から座り続けた。
そのうち日が高くなり、公園へ立ち寄る人で溢れてくる。
いつ頃来るだろう。
今どこにいるんだろう。
向かってきている最中だろうか。
だが、何時間座り続けても、彼女は現れなかった。
ずっと1人で僕が座っていることに気付いた人たちが、妙な視線を向けてきても、僕は彼女を待ち続けた。
17時50分になった。
もうすぐ、あの余分な1分間が始まる。
もしかして、この公園に行くというのは、あの17時60分の間でのことだろうか。
彼女は僕と違って、好きな所へその身を移動させる事ができるのだろうか。
彼女は17時60分にこの公園で待ち合わせをしようと持ちかけたのか?
もしそうなら、有休まで使って一日中こんな所にいる僕はなんて馬鹿なんだ。
でも僕には好きな所へ移動する術はない。
いや、何か方法があるのか?
「うーん……」
行きたい場所を、17時60分になる前に想像しておく、とか?
「それぐらいしか、ないよな」
17時60分までの5分間。
僕は必死に公園の名前を頭の中で連呼し、瞬きも忘れて公園の様子を目に焼き付けた。
そして、その時がきた。
17時59分50秒。
スマホに映し出されている数字を睨みつけながら、頭ではこの公園を鮮明に想像し続けた。
55、56、57、58、59……
僕は勢いよくその顔を上げた。
公園の景色は、変わらない。
数秒が経っても、視界に広がる公園はそのままだった。
成功したのか?
僕も17時60分に、好きな場所へ行けるようになった?
そう思った。
だが、残された時間を確認しようとスマホを見た時、僕は絶望した。
時刻は、18時ちょうどを指していた。
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