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その日から、僕の余分な1分間は消えた。
次の日も、その次の日も、僕の一日に17時60分という時間は訪れなかった。
別に、あの1分を有効活用していたわけじゃない。
必要不可欠に思ったこともない。
でも……
「もう、君に会えないなんて……」
声を聞いたのは、あれっきり。
顔をちゃんと見たのも、あの一瞬だけ。
随分と長らく気にかけてしまっていたせいか、あの一言だけで、僕はすっかり恋に落ちてしまっていた。
名前も歳も、どこにいるかも分からない。
素性は何も知らない。
だけど会いたい。だから会いたい。
一体どうすれば、また、君に会えるんだ?
「最近ぼんやりしてるが、大丈夫か?」
会社の先輩に心配される日々。
「あいつも結婚しちまったなー。俺ら一生独身かな?」
友人の吉報と、典型的なボヤきを聞く度、思い出されるあの子の声。
馬鹿だな。
もしもう一度会えたところで、あの子と結ばれるなんて奇跡、ありはしないのに。
「おまじないでもしてみれば?」
「最近流行りの?」
「そんなの学生の遊びだろ。出会い系サイト登録した方が確実だぜ」
何となく参加した飲みの席。
大抵盛り上がるのは、交際相手が云々とか、いい相手紹介してくれだとか、そんな話ばっかだ。
「僕、今日はこの辺で……」
「おう。気ぃつけろよー」
いくら飲んでも全く酔えず、周りの話が頭に入らない。
常にあの子を考えてしまう。
あまり楽しむことができず、早々に切り上げて1人帰ることにした。
賑わう飲み屋街を、しらふのままフラフラと歩いていく。
駅前で楽しそうにはしゃいでいるカップルの姿を目にした。
そしてふと思い立ち、いつか行った○○駅にあるあの公園へ行くことにした。
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