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僕は一人、過ぎた日に想いを馳せていた。
僕は自分に課した使命を全うし、老いることもない長い眠りに就いてずいぶん時が経った。
そうして目覚めた僕がこの星の現状を把握して馴染むまでに、更にどのくらいの歳月が過ぎただろう?
僕は自分の願った通りのこの世界の、その一部として今日もここに立ち、そして生きている。
ある日、僕の住居が入っているドームの外に、小さな宇宙船が降りてきた。
こんな忘れられた星に一体何の用だろう?
人間が容易に外を出歩くことも出来ない、こんな星に…
環境適応用のスーツを着込んだ僕のほか、僕を目覚めさせてくれたドームの住人たちと数人で取り囲み、様子をうかがう。
人間サイズがひとり乗れる、カプセルのような乗り物がその宇宙船から出てきた。
はるか昔にあった、『車椅子』のようなものだろうか。
「…突然すみません、私の言葉がわかりますか?人間の方はいらっしゃいますか…?」
色のついたカプセルの中は見えないが、そこから聞こえたのは女性の声だ。
若い声だけれど、その声はかなり弱々しい。
周りが自分を心配して声を掛けるのをよそに、僕は武器も持たずに前に進み出る。
「…何の御用でしょう?人間は私ですが。」
目の前のカプセルからは何も聞こえなくなる。
少しの時が過ぎ、か細く、震えるような声が聞こえてきた。
「…あなた……」
何だろう?相手は泣いている…?
僕が何かをしたのだろうか?
再び僕が声をかけようと口を開いたその時だった。
「…私よ…分からない…?」
分からないのか、って…。
僕のことを知る相手が、もうこの世界にいるはずは…
目の前の動くカプセルのスモークが薄れていき、中の様子が見えてくる。
「…。」
…そんなはずはない。彼女はもう、とっくに…
「…メットを着けていても、私には分かるわ…!やっと戻ってきたの、この星に…。あなたに会うために…。あなたがすぐに分かるよう、別れたときの姿で…。この星に居残るのを反対していた私の家族は、もういないから…」
…僕と別れ、自分を心配する家族と共にこの星を旅立った、僕の…
どれほど長い月日が流れたと思っているのだろう?
せっかく別の星で生き長らえたというのに、人間がもう決して長くは生きられないと言われたこの星に戻ってくるなんて…
「…馬鹿だよ、君は…。なぜ…せっかく長生き出来たのに…」
絞り出した僕の声は震えていた。
「…姿だけよ?中身は、こんなものに頼らなければ動けないほどの『おばあちゃん』。それに、もう長生きが出来ないのはお互い様でしょう…?あなたもちゃんとこうして生きていたじゃない…良かった…!」
君は遥か昔に見ていた通りの笑顔で、昔とは違う、少し弱々しい声で笑う。
僕はそれだけで満たされた気がした。
「…ようこそ。みんなで作り上げた、この星のユートピアへ。」
「見せて…?あなたが願った、身勝手から解放されたこの星の、その世界を…」
例え長く生きることが出来なくても、強く信じられるものがあれば僕は救われる。
そして僕は生きていけるんだ…
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