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第14話 間口
「下界に戻れる……近道……」
蓮は、羽矢さんが言った言葉を口にした。
そして、考えを纏めるようにも、羽矢さんが言っていた言葉を呟き始めた。
「光が差せば闇は消える……ないものをあるとは言えない……闇には実体はない……ただそこに光がないだけ……」
そう呟いた後、蓮は立ち上がり、部屋を出ようとする。
「おいっ……! 蓮っ!」
蓮は、羽矢さんの声に足を止めた。
「あ……ああ」
……蓮……?
なんだか様子がおかしい。
ああ……でもそれは昨日からだ。
いや……あの山に行ってから、蓮の様子が変わってきていた。
僕は、今まで見た事がなかった蓮の姿を見ている。
やっぱり……当主様の事……。
あの山に行く事になったのも、当主様に言われた事だからだ。
目的は蓮につく式神と……境界の確認。そして僕たちは、境界はないと報告していた。
「蓮……お前……俺に隠している事ないか」
「羽矢……」
「総代か」
羽矢さんも僕が案じている事と同じだった。
「……ああ。羽矢……お前だって俺に隠している事……あるだろ」
蓮の言葉に羽矢さんは、静かに溜息を漏らした。
「なあ……蓮。何を信じるかってさ……自由だよな。何処の神社だろうが寺院だろうが間口は広い。誰も……勿論俺も、ここに来いとは強制などしない。勝手にって言ったらなんだけど、いつの間にか檀信徒が増えていくんだよ」
「……なにが言いたいんだ。俺に気を遣っているつもりなら、遠慮などしないではっきり言ってくれていい」
「蓮……総代は違うだろ」
羽矢さんの言葉に、蓮の目が動く。
「全ての神社、寺院に立ち入る事が出来る……それは当然、総代の力を指し示している事だ。つまり……」
「……邪魔」
蓮は、大きな溜息をつくと椅子に座り、頭を抱えた。
「蓮……」
僕は、蓮が心配だったが、先に続けられる言葉がなかった。
羽矢さんの言葉が続いた。
「怨霊信仰も裏を返せば、悪霊崇拝だ。そうなれば当然、意向は一致する。なにせ、怨霊と言われているくらいだからな。それを祓うのも陰陽師のお役目だろうが、そもそもが怨念を鎮める為に祀るものだろう」
「だから近道なんだろ……羽矢。鎮める前に引き戻すって訳だ。昨日……お前に連れて行って貰ったところは、冥府の入り口……そこに差す光は、地蔵菩薩の光明だ。藤兼家は代々、冥府の番人としてそこに名を置く。その番人に託されたのが地蔵菩薩なんだから……理解するのは簡単だった」
蓮の溜息が繰り返された。
その苦悩が大きくなる事は、僕も同じだった。
羽矢さんのところに託された地蔵菩薩。何が起きようとしているのか、それが起きる事の大きさに対しての対処だと理解出来る。
羽矢さんは、ふうっと息をつくと、静かな口調でこう言った。
「地蔵菩薩は、六道能化……六道全ての界に現れる事が出来るからな」
「……知っていたんだな」
「……ああ。流石だと思うよ、総代は。その事にいち早く気づいていたんだからな」
羽矢さんの言葉を聞くと、蓮はゆっくりと立ち上がった。
そして、羽矢さんの肩に手を置くと、いつものようにニヤリと笑みを見せる。
冷静で、何事にも恐れを見せない強さ。
その表情に迷いは一切ない。
誇らしげに言う言葉に、僕は……。
「だから『総代』なんだろ?」
ここにいる事が出来る事に感謝していた。
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