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第13話 近道
蓮の声を聞きながらも、いつの間にか眠ってしまっていた。
それは蓮も同じだったみたいだ。
こんな事は初めてだった。
部屋に来る事は珍しい事ではないが、僕が寝ている時に来るなんて……。
目を覚ました後に僕の目には、蓮が映っている。
……眠ってる。
蓮の寝顔を見つめながら、昨夜の言葉を思い返す。
『お前だけは……俺の側にいてくれるよな……』
……蓮。どうしてそんな事を急に言ったんだろう。
僕の手が、そうっと蓮へと伸びる。
触れたら起こしてしまうかもしれない。
そう思ったら、手が止まった。
少しの間、蓮の寝顔を見ていた。
少しの間になったのは、蓮が目を開けたからだ。
「あ……」
戸惑う僕。
間近で目が合う事に、どうしていいのか分からない。
「あの……蓮……」
「……」
蓮は、じっと僕を見るだけで何も答えない。
その真顔にも見える顔が、余計に僕を戸惑わせる。
見つめ合ったまま、少しの間が開いた。
「……だって……」
「え?」
聞き取れなかった。
「え……? 蓮?」
ボソボソと呟くように何か言ったかと思うと、目を閉じて、小さくも寝息を立て始める。
蓮って……寝起きが物凄く悪いんだ……。
また……寝ちゃった……。
そうかと思ったら、突然、勢いよく起き上がる。
その蓮の動きに釣られて、僕も起き上がった。
蓮は、辺りを見回すように首を左右に動かすと、ピタッと動きを止める。
そして、目の前にいる僕に視線を向けた。
「依……」
「はい……」
蓮の両腕が僕に回る。
ふわりと包まれるような感覚に、飲み込まれてしまいそうだ。
覆い被さるように倒れてくる蓮の体重に、僕はそのまま身を任せて倒れた。
「蓮……」
蓮に聞こえしまいそうな程に、心臓の鼓動が大きくなる。
「……もう少しだけ……寝かせて……」
いつも冷静で、堂々としていて、何にも恐れを見せない強さ。
そんな蓮が、子供のような姿を見せる。
それをきっと……僕だけが知っている事だ。
そう思える事が嬉しかった。
だけど……こんな平穏とも言える時は……。
「蓮っ……!」
そう長くは続かない……か。
部屋の扉が勢いよく開いたかと思うと、声と共に羽矢さんが現れた。
僕の上に乗る蓮の襟首を掴んで、無理矢理起こす。
「おいっ……! 蓮! 起きろ!」
「……朝からうるさい……羽矢……」
「お前ねえ……お前の部屋に行ったらいねえから、どうせここにいるんだろうと思ったが、思った通りだな。俺にだけ仕事させておいて、いい御身分だな?」
……あれ……? 羽矢さん、黒衣だ……。
蓮は、欠伸をしながらその場に座ると、羽矢さんに目を向けた。
「それで? なんだ? まだ陽が昇ったばかりの早朝も早朝だ。俺が欲しがる情報でも手に入ったか?」
「ああ、入ったよ」
羽矢さんの言葉に、蓮の目つきが変わった。
羽矢さんが話を始める。
「死後、七日ごとに裁きを受けて道が決まる。その間四十九日だが、閻王の裁きは三十五日目で、それが最後の裁きだ。だがな……」
羽矢さんの表情は、苛立ちを見せていた。
「抜け道って言うだけあるって事なんだろ……羽矢」
「……ああ、そうだ。四十九日も掛からない……」
羽矢さんは、睨むような強い目を見せて、こう答えた。
「それも……下界に戻れる『近道』だ」
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