さようなら、同い年のあなた

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「お揃いの指輪、外したの?」 「つけててきみが気づいたらどうしようとか、きみがもう僕を好きじゃなかったらどうしようとか、いろいろ考えた結果外しました」 別に責めたわけではなかったのだけれど、断罪に怯えるように、言い訳がましく早口が降る。 そんなに怯えなくたって、大声で喚いて怒ったことなんてないじゃない。 慌てように笑って、怒ってないよと言った。 「いや……きみが、泣いたら……どうしようかと思って……」 「大丈夫、泣きません」 しどろもどろの訂正に噴き出す。 そうだ、わたしが泣くと、おろおろぐるぐる、途方に暮れてホットミルクを差し出すひとだった。 「でも寂しいから、またお揃いでつけたいな」 「つける」 あつい手のひら返しである。 「でもごめん、家に置いてきたから、帰ったらすぐつける」 「うん。つけたら、またお休みの日に来てね。見せに来て」 「うん」 「あとカレンダーと時計とテレビと、契約切れてなければわたしのスマホと、本がないと、することなくて困ります」 「うんそれは! なるべく早くする!」 変わらない怖がりなところが、可愛くて、愛おしくて、ばかねえ、と思って。 その指に、早く指輪が戻ってくるといいなと思った。たくさん話したいなと思った。 「わたし、リハビリ頑張ったら退院できるかな」 「できると思うって先生は言ってたよ」 「わ、それは嬉しいお知らせ」 じゃあ。 「退院したらあなたのおうちに行くから、そのときは、おかえりって言ってね」 「うん。忘れない」 きゅう、と、繫いだ手に力がこもる。 さようなら、同い年のあなた。 こんにちは、五つ上のあなた。 よろしくね、大好きなあなた。 ただいま、ただいま、変わらないあなた。 Fin.
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