王道「外伝」伝説!

19/20
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「いいんですか? またここに来て、いいですか?」 「はい、どうぞ。いつでも」  私に向けて、新月さんははっきりと頷く。  そして、床に置いてあったバッグを持ち、私の手にしっかり握らせてくれた。 「長くお引止めしてしまいすみません。そろそろ本当にお店を閉めますので」 「……はい」  私も頷き、ドアを開ける。てぃりん、に近い響きで、ベルが軽やかに鳴る。  店の外へ一歩踏み出す瞬間、 「行ってらっしゃい」  新月さんの、真っすぐに優しい声が聴こえた。  驚いて振り向く。悪戯っぽくウィンクして見せる新月さんの顔が見える。  またのお越しをお待ちしております、ではなく、行ってらっしゃい、と。  私は閉まりかけたドアの向こう側に向かって叫ぶ。 「行ってきます!」  ほぼ同時に、ドアがガチャンと閉まった。  新月さんに届いたかは分からない。でも私は、振り返って家への道を歩き出す。  行ってきます、に続く「ただいま」を、またいつか言いに来ようと、帰ってこようと決めて。信じて。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!