天蓋

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 自分自身はそれらの情報をまったく得ていない。  だから天井についてはわからないままだ。  しかしたとえ雨の成分分析ができていたとしても、あの天井がなぜ現れたのかの謎を解明することなどできないだろう、とは感じる。  あれはそういった手法で解き明かせる類のものではないのではないか。そう思えてならない。  そして天からの恵みに関しても、どうにも不吉な予感はしていた。  それは直感的にというよりも、少し推測が絡む。  あの雨が恵みだとして、こんなにも早く人間はそれを活用してしまうものだっただろうか。たとえ技術的に可能だとしても、どんなリスクがあるかわからない。そういったことの充分な検証ができるような期間ではないように思えた。  そしてできたものがあのような乱暴なテクノロジーだとするなら、不吉な予想が成り立つ。  人類はもしかしたら、その歴史の終焉を迎える具体的な時期を知ってしまったのではないか。  それが思いのほか早かったがために、自暴自棄になっているのではないか、と。  その予想を裏付けるような事実に気づいたのは、やはり今日と同じように空を眺めていたある日のことだ。  天が少しずつ、地上に近づいてきている。  当然錯覚を疑ったが、ほんの数週間の明るさを比較するだけで明らかだった。  確かに、あの天井は液体のように見える。  そして降ってきた雨が粘性のある液体であったのなら、粘性が強いままのものが天に今もあり、何らかの原因で粘性が弱くなったものが雨となって落ちてきたのだと推測はできる。  つまり天井は粘性が強い状態の液体の塊であり、それは現れたそのときから今に至るまで、ゆっくりとだが確実に地上へ向かって落ちてきているのだと。  であれば、あの塊が近いうちにそのまま地上を圧し潰すのは、もはや必然と言っていい。  それが見えたからこそ、人間たちは最後の恵みで世界の終わりを存分に謳歌しようとしているわけだ。  そこに将来へ向けた計画的なエネルギーの運用など、あるはずもない。
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