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3.夢
「願い事、叶うかなぁ?」
居間で楽し気に鶴を折る幼い私。保育園でもらったとっておきの真っ赤な折り紙を丁寧に折っている。母はそれを優しい眼差しで見守っていた。
「美紀ちゃん、どんなお願い事? 新しいお洋服? それともお靴かな? ごめんね、いつも我慢ばっかりさせちゃって。お父さんきっと今度の仕事は続けてくれるから」
慌てて首を横に振る私。
「ううん、大丈夫。そんなお願いじゃないんだ」
場面は変わり深夜。仕事をクビになったと酔って暴れる父。母は父に激しく殴られて悲鳴をあげていた。息を潜めるようにして布団にくるまる私。しばらくして静かになったと思うと父は鼾をかいて眠っていた。こっそり布団から出て居間を覗くと母は呆けたようにいつもの場所に座っている。と、おもむろに手を伸ばし茶箪笥の引き出しから缶の箱を取り出した。中には私の折った鶴がぎっしりと詰まっている。
「美紀ちゃん、ごめんね」
母は独り言ち、折り鶴の中に書かれた願い事を読み涙を流す。その手が真っ赤な折り鶴に伸びた。昼間、幼い私が折っていた鶴だ。母は少し躊躇した後ゆっくりと鶴を開く。
その瞬間、再び場面が変わった。居間の畳を上げ床下を掘る母。広げられた新聞紙の上に小さな土の山がいくつもできていく。その横で何事もないかのように一生懸命に鶴を折る私。母は青いビニールシートにくるまれた何かを床下に蹴り入れると土を被せた。再び畳を戻し座布団を敷くとその上にどっかりと腰を下ろし美味しそうにお茶を啜った。
「美紀ちゃん、願い事、叶ったね」
そう言って笑う母。にっこりと微笑む私。そこで目が覚めた。
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