釜揚げいかなご丼

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 ここは私、笹原雪乃の故郷、兵庫県たつの市御津町にある、新舞子浜。実家の前にある、瀬戸内海の波はいつも穏やかだ。優しい波が疲れた私の体を、そっと包んでくれた。浜辺の入り口には松林が大きな顔をして、立っていた。これも相変わらずだ。砂浜に沿って続く歩道を歩く。  民家が沿うようにして建ち並ぶ。その一角が私の実家だった。藍色の真新しい、長方形の建物の外観。去年私が帰って来たときから、一変していた。建て直したと両親や姉から聞いていたが、実際自分の目で見てみると、他人の家に来たような感覚に陥る。今までなかったアーチ窓が並んでいて、入り口には『メモリー食堂』と、文字が書かれた看板が大きく立っている。それと同時に、姉の結婚後の名字『川井』というウサギのイラストが入った表札も、掛かっていた。
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