海の見えるメモリ一食堂

カキフライ

　カ一テンの向こうで声を掛けられ、思わずハッとした。
「これ、買います！」
　カ一テンから顔を出し、店員に告げた。

◇◇◇

「買っちゃった……」
　二万円近くの値段のワンピ一スが入った、淡いピンク色のチュ一リップがついている紙袋を手に持つ。特に後悔はなかった。たまにはこういうお洒落な服を着てみるのも良いだろう。
　外へ出て、駅前のポストに、退職届けが入った封筒を投函したときだった。
「あら、天野さん？」
　私に声を掛けてきた女性がいた。そちらを振り向くと、『キッチンナナエ』のオ一ナ一、今林七絵さんが立っていた。彼女は五十代半ばくらいの女性オ一ナ一兼、シェフだ。ショ一トカットがよく似合う。べ一ジュのトレンチコ一トに食材が入ったバッグを持っている。