釜揚げいかなご丼

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釜揚げいかなご丼

 タクシーを降りると、そこには一八〇度に近く光る海が広がっていた。同時に吹き込んできた磯の香りは、今まで暮らしていた東京の都会の街とは、全くもってかけ離れたものだった。まだ太陽の位置は程よく高く、陽光が差し掛かった水面はキラキラと光っていて、最高のロケーションだ。水平線には家島、西島、坊勢、男鹿島などの小さな山が浮かぶように見える。牡蠣の養殖のイカダが、遠くの水面に浮かんでいるのが見えた。  冬から春に変わる時期の強い海風が、もろに頬に当たり、ウールのコートを羽織っていても、寒くて肌が痛い。それも全てが懐かしくて、涙腺が緩む。
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