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休日の朝。少し早めに起きて、少しめかし込んで青年は都心のとある有名ホテルに足を踏み入れた。
自分がいつもは目にしない、品格のようなものがこの空間には漂っていた。通りすがりすれ違う人が怖いような気がした。
だが青年の用があるのは、まずはここにいる人間では無い。
ロビーの一角に宿泊プランの案内パンフレットが置かれていた。
青年は、それらパンフレットの中から『クリスマスプラン』の冊子を手に取った。
パンフレットには、クリスマス期間、つまり12月24日から25日にかけての宿泊や食事その他のイベントに関するプランの案内が記されていた。
子供のいる家族向け、夫婦向け。いろいろあった。
それらの案内の中には、恋人同士のそういう甘い時間を過ごすためのプランも書かれていた。
そのプランの説明の冒頭に、こうあった。
『当プランをご利用になろうとするお客様への基本的なご注意。
クリスマスの行事として12月24日午後辺りから25日夕暮れに当たるまでの時間、お食事、飲酒、その他イベントに関わる長時間を退屈なく過ごせる会話術がご自分に備わっているかご検討ください。また、食事中から、その後の展望バーでの飲酒、部屋に入ってからのルームサービスでの飲酒等、長時間にわたり飲酒がつづきます。この間、ご自分を見失わず行動できるかをご確認ください。
また最後に、これらのことをこなした上で、「夜の力」を存分に発揮できるかについて考慮してください。
ただいまご説明申し上げましたことを踏まえた上で、自信のあるお客様のご利用、お待ち申しております。
時節柄混み合いますので予約は、なるべく早いご決断をお待ちしております。―ホテル従業員一同』
青年は、そのパンフレットを棚に刺し直した。ホテルの全従業員に見られている気がして、そそくさとホテルを後にした。
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