忘れ形見

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「……今、どこにいるの?」 照りつけるような日差しが差し込む縁側に腰掛け、おじいちゃんが茹でてくれたとうもろこしに齧り付く。 青い空は今の私の心境とは正反対で、カラッと爽やかな夏を彩っている。 こんなにも私の心は澱んでいるのに、どうしてあんなに爽やかな天気なのだ。 空に八つ当たりしたってどうしようもないのに、この恨めしさは隠しきれない。 「なに、すぐに帰ってくるさ」 「……おじいちゃん」 とうもろこしが入ったお皿を挟んで隣に腰掛けたおじいちゃんは、お皿から一つとって私と同じように齧り付く。 「……ミケは、ちょっと出掛けてるだけだ。すぐ戻ってくるよ」 「……でも、ミケが居なくなってからもう一週間だよ」 おじいちゃん家で飼っている猫のミケが居なくなったのは、ちょうど一週間前のこと。 元々はおばあちゃんが拾ってきた捨て猫で、おばあちゃんにとても良く懐いていた。 「きっと、婆さんを探しに行ったんだよ。もう会えないのが、多分信じられないんだろう」 「……」 一ヶ月前、おばあちゃんが突然の病気で亡くなってしまった。 八十八歳で、米寿のお祝いをしたばかりだった。 親戚一同が集まりおばあちゃんとの別れを惜しむ中、ミケはおばあちゃんにそっと擦り寄って、冷たくなってしまった頰を温めようとしたのか器用に舐め続けた。 そのままじゃおばあちゃんに最期のお化粧ができないからと、ミケを抱き上げた私は見事に手を引っ掻かれたけれど、必死に鳴きながらおばあちゃんに寄り添おうとするミケがどうしようもなく可哀想で。とても見ていられなくて。 そのままミケを抱きしめながら、玄関に移動してひっそりと泣いた。 そのまま納棺を経て通夜と告別式を終え、火葬後におじいちゃんと家に帰った時。 ミケは玄関でずっとおばあちゃんを探して鳴いていた。 朝も、昼も、夜も。 ご飯も食べずに、水も満足に飲まずに。 ただじっと、玄関でおばあちゃんの帰りを待っていた。 私の家はここから自転車で通える距離だから、時間があればおじいちゃんとミケの様子を見に来ていたのだけれど。 一週間前、ミケがいなくなったとおじいちゃんから聞いた。
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