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Side 祭里
「今どこにいますか?」
俺には、どこにいるか気にしてる人も、俺がどこにいるか気にしてくれる人もいなかった。
またこの日を繰り返している。
僕は目覚ましにセットしているスマホのアラームを止めた。
表示されているのは、10月15日。
この日を繰り返している。
1回目のループが始まったときは先ずは日付を勘違いしているのかと思った。
トースト1枚と、インスタントコーヒーで簡単に朝食を済ませ、会社に向かう。
2年通っている道では、同じ時間にはほぼ同じ光景が見られる。
開店準備をしている花屋の前を通り、女子高生の集団とすれ違い…
最寄り駅の改札を抜けて…
仕事でも同じ相手から電話があるし、同じ仕事をしている。
違うのは同期の黒川健心(くろかわけんしん)の行動だけだ。今までほとんど話したことがなかった黒川だが、1回目のループのときに俺を昼飯に誘ってきた。
1回目のループで誘われた時は、ほとんど接点がない同期と2人きりだということが気詰まりで、都合が悪いと嘘をついて断ってしまった。
2回目のループでは、また断るのも悪い気がして、ついていった。
黒川は思っていたよりも気さくな性格で、連れて行ってくれた路地裏の喫茶店のコーヒーとナポリタンが美味しくて、黒川と話すのも楽しかった。
仕事ができて、イケメンで、背が高くて、人当たりがいい黒川はすごくモテる。多分αだろうと噂されている。
俺は人と話すのは苦手だし、実はΩだ。
男女の性別の他に、αβΩの3つの性がある。薬で抑えられていて、ほとんど感じられないけど、劣勢種Ωのフェロモンが優勢種のαを誘っていると言われている。
黒川は俺にとっては別世界の人で、こんなに話すようになるなんて思っていなかった。
黒川に繰り返す今日のことを相談しようとは思った。でも現実だとは自分でも信じられなくて、話さなかった。
2回目のループのときに黒川は喫茶店で昼飯を食べている時に、帰りに飲みに行こうと誘ってくれたけど断った。気軽に同性の同期を飲みに誘っている気持ちなんだろう。
ほとんどフェロモンが出ていないとはいえ、Ωの俺がαと2人で飲みに行くのは躊躇ってしまった。
3回目のループが始まった今朝は、アパートの近くで黒川に会った。そう言えば、近くに住んでると言っていた。
「おはよう、伊坂。偶然だな」
爽やかに挨拶してくる。イケメンの笑顔の破壊力。
「伊坂、昼一緒に食べれられる?」
「大丈夫だ」
俺は総務で内勤だから、営業の黒川が会社にいるなら、大丈夫だ。
「良かった。行ってみたい店があるんだ」
女性社員を誘ったら、喜んでついていきそうだが、なぜか黒川は俺を誘う。いつもと同じ光景なのに、黒川と一緒に歩くと少し違って見える。
いつもすれ違う人たちが、イケメンの黒川を見てるのも感じる。
電車では俺をさりげなくドア側にしてくれて、庇ってくれてる。電車が混んでいたいたせいで黒川と密着してしまったが、イケメンは匂いまで、爽やかだ。ミントのような匂いで、嗅いでいたくなる。
黒川と密着していると、変な気持ちになってくる。発情しているΩみたいだな。
また飲みに行こうと誘ってくれたら、今度は素直についていきたい。
前回のループで黒川と喫茶店に行ったとき、「伊坂は話をしっかり聞いてくれて、丁寧に対応してくる。いつもありがたいよ」と言ってくれたのは嬉しかった。
会社で仕事をしていても、黒川はどこで何をしているか考えてしまうほど、俺は黒川が気になってる。これから昼飯を一緒に食べられるだけで浮かれてる。
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