0人が本棚に入れています
本棚に追加
鬼の子に、優婉なる娘あり。花の名前をとり牡丹と呼ぶ。
髪ながく、肌しろく、頬あかく、腕に力あり。人、これを怪ならむといへり。
幼き頃、腹の中に大きな石を呑み、物食ふごとに鈍き音の響きたることあり。
十八の夏、蟬の聲を聴き、庭に咲く向日葵を眺めつつ、汗にまみれて素麺を啜る鬼の娘、そのたび腹の石くだくだと鳴るなり。食い終わり横になりしが、石の音鳴り止まず。
鬼の娘、みずから何をか食はじと泣きて物食ふことを断てども栓なく、飢えを抱へて泣くこと六晩。竟には頬に涙の筋を垂らし、拭わぬまま死にて居たり。
朝、庭の向日葵の太ぶとき茎、鬼の妹の口より入りて猶、腹の石には届かず。
石、ただ牡丹鬼の腹の奥に在りてくだくだと鳴るなり。
(その音あまりに喧しく、また腹部にぬしぬしと響き、吐瀉を齎しけり。)
最初のコメントを投稿しよう!