14人が本棚に入れています
本棚に追加
てんせいって、なんですか
とってもキラキラしたおねえさんです。
「いたかったね。もうだいじょうぶよ」
そっと、あたまをなでてくれました。
さいしょはこわくて、「やだぁっ!」っておねえさんをぶってしまったけど、たたきかえされませんでした。
けられなかったし、なぐられなかった。
ベルトでぶたれることも、タバコをギュッとされることもなくて、びっくりしちゃった。
「おねえさん、おこらないの?」
そおっと上を見たら、おねえさんはニコニコわらってます。
……わらってる……。
すごく、すごくきれいで、こころがホワホワします。
「あなたをおこる人なんて、ここにはいないわ」
おねえさんはあたしをだっこするとフワっとうかんで、ユラユラしてくれました。
「ずぅっとまえね」
「ええ」
ユラユラ、ユラユラ。
「おかあさんも、こうやってくれた」
「そう」
「でもね、あたらしいおとうさんのおうちにひっこししたら、おとうさんおこるから、やってくれなくなちゃった」
「そう」
ユラユラ、ナデナデ。ユラユラ、ナデナデ。
おねえさんの手はあったかくて、気もちよくて……。
「おねえさん」
「なんでしょう」
「あたしはわるい子だから、じごくってとこにいくんでしょう?」
「……」
「かわいくないから、ぶたれるんでしょう?バカだから、ごはん、たべちゃだめなんでしょう?」
わあ!キラキラがふえた!
あったか~い。……気もちいい。
だっこしてくれるおねえさんが、もっとフワフワになって、ホカホカしてきたみたい。
「あなたはかわいい。こんなにかわいい。タマシイもかがやいていて、とてもきれい」
ポツンと水がおちてきて、びっくりして上を見たら、おねえさんがポロポロないていました。
なみだ……。
おとなの人も、なくんだ。
……そういえば、おかあさんがないてたことも、あったなあ……。
「あのね、おねえさん」
「はい」
ポロポロ、ポロポロ。
おねえさんのなみだは、おかあさんが一こだけもってるゆびわの、ダイヤモンドみたい。
「はじめて、いまのおとうさんにぶたれて、口からちが出たときにね」
「はい」
ポロポロ、キラキラ。
「おかあさん、ないたの。かわいそうって。でもね、そしたら、おかあさんもぶたれたの。だから、おかあさんはわるくないって、さっきうちにきたおまわりさんに、いいたかったんだけど」
「やさしい、いい子ね。それはべつのタマシイのもんだいだから、あなたは気にしなくていいの」
おねえさんのやさしいこえをきいていたら、きゅうにねむたくなってきました。
「……おねえさん」
「なんでしょう」
「ランドセル、おとうさんがほうちょうで、ギタギタにしちゃったの……」
「……」
「おまえなんか、学校いかなくていいって。おかあさんといっしょに、赤くてカワイイの、えらんだのに。だから、もう学校にいけなくなっちゃった……」
「その愚かで哀れな魂に報いは必ずある。けれど、今は何もできない。できるのは、とびきりの加護をあなたにつけること」
それってなに?って、もうきけなかった。
ねむくて、ねむくて。
「この愛しい魂に、最大の加護を」
どんどん、どんどんからだはあつくなっていくのに、おねえさんはギュウってだきしめてくれるのに、おとうさんがふとんでグルグルまきにしたときみたいに、くるしくはならなかった。
「つかれたでしょう。もう、お休みなさい」
「ねていいの?」
「もちろん」
「ベランダでねろって、いわない?」
「もちろん」
「ねてるときに、水かけたり、しない?」
「もちろん。もうなにも、しんぱいしなくていいの」
耳のすぐちかくで、上からも下からも、右からも左からも、おねえさんのキレイなこえがきこえてきました。
「……おやすみなさい……」
やっとぐっすりねむれるんだ。……しあわせだなぁ。
「あの可愛い子は、今どこにいるかしら」
下界をのぞき込んだ女神に、きらめく笑顔が広がっていく。
「ああ、笑ってる。……あの無垢な魂に、さらなる祝福を」
純度の高い氷のように透き通っていて、氷砂糖のように甘い女神の歌が、いつまでもいつまでも、下界に向かって送られていた。
最初のコメントを投稿しよう!