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だが、熊狼にも俺が心の声が分かる事は言えずにいた
此奴は、自分がアニメヲタクだと知らない、気付いてない俺だから一緒にいる事を楽だと思ってくれている
゙ 夕凪くんの声、好きなんだよなぁ。落ち着く ゙
人間として、話し方や声が好きだと思われているのに、
流石にこの関係を壊すほどの馬鹿じゃない
其れでも何事も無く高校を卒業し、大学まで卒業出来たのは此奴のお陰だった
「 海外に行く。祖父の本社に…。日本には戻れねぇと思う 」
「 そっか…。頑張ってな、俺は俺で頑張るからさ 」
゙ 寂しくなるな… ゙
不器用に笑った此奴の本心に、グッと奥歯を噛み締めてはシャツを引き寄せた
僅かに驚いた熊狼は僅かに首を曲げ、カツンとぶつかる額に目を見開く
「 御前と馬鹿みたいに騒いた学生時代は楽しかった。…日本に来た時…呑みに誘うから。それで我慢しろよ 」
「 っ…そうだな…。来た時…必ず誘ってくれよ 」
「 嗚呼 」
家族よりも長い時間を共にした
俺達がもし、男も愛せるような質ならそういった関係になってても可笑しくはないだろうって位は、二人で旅行に行ったりもした
だが、俺達はお互いに本音を言えないまま
友達としての付き合いを優先していたんだ
此奴はヲタクであることを伏せて、俺は心の声が聞こえることを伏せていた
まぁ、ヲタクなのはバレバレなんだから
隠す必要もないと思うが、此奴のプライドが許さないんだろうな
ゆっくりと離れれば、熊狼は眉を下げ笑った
「 日本支部の、貴方の会社に務める。いつか秘書になるから…。その時は、隣で働かせてくれ 」
「 期待してる。俺も、御前の迷惑にならないぐらいの社長になってやるさ 」
「 嗚呼、そうしてくれ 」
俺達は、そう約束して御互いの仕事の為に離れる事になった
男同士の連絡なんて呑みに誘う程度しか無い為に、プツリと連絡もしなくなった
それから、面倒くさい本社での仕事をしながら祖父の下で実績を重ね、月日は流れる
今から、六年前
俺が二十九歳の頃、日本に来るタイミングがあったからこそ、仕事終わりに熊狼と呑む事にした
「 御前、ちゃんと父の会社で仕事してるみたいじゃないか。それも入社七年目で父親の秘書か…凄いな 」
「 まだまだかな…。四月に入ってきた十八歳の子が有能過ぎて…。学び方の差を感じる 」
「 ほぅ?大学行かずに、入ってるのか 」
「 そうだな、本人は気にしてるようだが…。全く気にならないな…。まぁ、周りに合わせようと無理してる感じがする 」
小さめの居酒屋に来てる為に、日本酒を揺らしてから一口呑む熊狼は、その十八歳の後輩が気になって仕方無い様子だ
゙ 前も、泣いてるの見たんだよな… ゙
若い後輩を持つと気になるのは分からないでもないが、俺以外の誰かを気にする事なんて無かった程にアニメヲタクだったから、少し驚いた
「 そりゃ、周りに大学卒業した、大人ばかりなら気になるんじゃないか 」
「 それもなんだが…。悪い男に掴まりそうで、なんだろうか…素直なんだ。人を疑わないタイプっていうか…何でも鵜呑みにするような子だな 」
゙ 最近付き合ってる二十五歳の彼氏も、いい噂聞かないし… ゙
深い溜め息を吐く此奴の悩みが、思ったより深刻そうだなって思い、店員に酒を追加するように片手を上げてお願いしていれば、店に新しい客が入って来た
「 次はここで呑もうぜー! 」
「 呑もうぜー!いえーい! 」
「 ……… 」
既にべろんべろんに酔っているレディースーツを着崩した長いミルクティーグレージュ色の髪をした若い女と、俺達より少し年下に見てるスーツ姿の男へと視線を向けて入れば、熊狼の心の声が聞こえてきた
゙ なんで…未成年を呑みに連れてきてんだ、馬鹿が… ゙
目線を熊狼の方を見れば、彼は片手を額に当て悩んでる様子だった為に、何気無く話のネタに含ませる
「 あのペア、随分と片方が若いな 」
「 …話していた、子です…。隣の男は…彼女の同僚であり、彼氏です… 」
「 嗚呼…呑んでるよな? 」
「 呑んでますね… 」
急に敬語になった熊狼は、隠す事なく盛大に溜め息を吐く
゙ もっといいタイミングで紹介したかった…。最悪だ… ゙
「( 嗚呼…、あんな状態で有能な部下とは言い辛いもんな… )」
良く出来た幼い部下と言えないぐらい、既に呑んでる為に彼もタイミングが悪いと悩むのは無理ない
何気無く見ていれば、男が二人分の酒を注文して、料理も頼めばそれだけで店員は年齢を疑いながらも、提供する
隠れ家的な小さな店だから、客は欲しいのだろう
「 透羽、ほら好きなだけ飲めよ。奢るから 」
「 やりー!ありがと! 」
゙ もう少し飲ませたら、持ち帰れるだろうな…。ヤッとヤれる ゙
「( クソ男だな… )」
呑ませて記憶がないあの子を連れ帰ろうとしてる事は心の声を聞かなくても、雰囲気で分かる
見ていれば男はそんな呑んではなく、ほとんど全てを彼女に呑ませていた
普通、好きな子にそこまで理性無くすまで呑ませるだろうか?あり得ないな
「 なぁ、透羽。好きなタイプってなんだ?俺のどこが好きなんだよ 」
「 えー、お尻? 」
「 尻?? 」
゙ 丸み帯びた形が綺麗だし、もう少し引き締まった方が見応えはあるけど、やっぱり腰からお尻にかけてかな…うん。今のところ会社で一番タイプかも ゙
口に出す言葉を全て心の声で言って満足したんだろう
男が傾げる様子を気にしないまま頷いては、串の焼き鳥を食べては、ビールを流し込んでいた
「 少し注意してきますね… 」
「 嗚呼、ついでに会計終わらせている 」
流石に呑ませすぎだと熊狼が思い、席を立てば彼女達の方へと行く
「 熊狼…さん…!? 」
「 君とは話がある、ちょっと外に出ていてくれ。此処の会計は俺が持つから。朝陽さん、立てますか? 」
「 ふぁーい 」
男を先に外に出したのを見て、伝票と共に足取りが悪い彼女を軽く支えれば、ふらつく彼女を連れて来た為に、俺も席を立ち伝票を持って会計へと行く
「 熊狼、一緒で構わない。出すといい 」
「 いえ、俺の後輩なので…ってこら、寝るな 」
「 いいから 」
立ったままウトウトとしてる彼女を支える熊狼からスッと伝票を持ち、共に会計をして貰っていれば、彼女は目を擦り急に背後から抱き着いて、腰に触れてきた
「 お兄さん、お尻が綺麗ですね。すごくタイプです! 」
゙ お尻きれー!良い形 ゙
「 こら、朝陽くん…!セクハラしたらいけませんよ! 」
ごく普通に片手で尻を撫でてくる此奴に、俺が持ち帰ってやろうかってぐらい額に青筋が立ち、それに気付いて熊狼が止めようとすれば彼女は言葉を続けた
「 でも、もう少し引き締めた方が全体のバランスが良くなりますよ…勿体無い… 」
゙ ちょっと筋トレしたら…良くなりそう。その時は…抱いて欲しい…処女だけど ゙
散々、付き合いたいと思われることは多かった
だが゙ 今の俺 ゙ではなく、俺が良くなった時に抱いて欲しいと望む女は居なかった
もっと良くなる、そうなる事を知ってるように告げた彼女を熊狼は引き離す
「 何を言ってるんですか!夕凪くんすまない、先に出てる 」
「 嗚呼 」
別に構わないが…
そう言う前に、彼は申し訳無さそうに彼女を引いて外に出れば、打ち込む手が止まっていた店員は直ぐに会計を終わらせ、金額を告げた
゙ いいな…カッコいい人に囲まれて。私も、抱き着きたい ゙
「 一万円からでお願いします 」
「 はい、一万円をお預かりします 」
そういう事じゃないんだ
彼女が抱き着いたのは、俺の顔じゃない
カッコいい人に抱き着くなら、彼女はこれまでだって簡単に持ち帰られていただろう
だが、そうじゃない理由がある
会計を終え、財布をポケットに入れ外に出れば店の端で熊狼は思いっきりあの男を説教していた
「 彼女はまだ十八歳なんですよ!?何を考えているんですか!貴方は同僚とは言えど彼氏でしょ!? 」
「 …すみません 」
「 謝って済む問題ですか! 」
俺が知る熊狼とは違う怒り方に、内心笑いそうになっていれば、彼等から少し離れた溝でしゃがみ込んで嘔吐付いてる彼女を見掛け、仕方無く横に行き背中を擦る
「 吐けるだけ吐け。呑み慣れないのを呑むからだ 」
「 おえっ…… 」
ここに来るまでに、かなり食って飲まされたのだろう
心の声がプツリと消えたぐらいには、酔ってることは分かる
「 人様の恋愛事情は興味ないですが、貴方は彼女と付き合う資格が無い。今すぐに別れなさい!寧ろ、私が首を切れる立場なら…仕事を辞めさせていたぐらいですよ 」
「 すみません…… 」
゙ 熊狼さん…透羽の事がすきなのかよ… ゙
゙ 御前には大人としての責任感がないのか ゙
人間と言うのは口や態度とは違った心を持つが、反省の色のない男とは反して、熊狼は言葉と心の声がよく似てる
それが嫌ではないからこそ、彼の傍は相変わらず苦痛では無いんだろうな
「 ごほ……、気持ち悪い…… 」
゙ 吐けない… ゙
彼等に視線を向けてる間、背中を擦っていた彼女は胃のあたりに手を当てる為に、仕方無く片手を動かし、口へと当てる
「 吐かせてやる 」
「 んっ!?っ… 」
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