1人が本棚に入れています
本棚に追加
父親が注いでくれる。ビールをあけるペースがいつもよりも早いことを、ゆたかは気にしていなかった。酒に弱いゆたかは、すでに自分の話す声があんまりよく分かっていなかったし、話しかけて無視されているとちゃんと声に出して話しかけているかどうかもよく分からなくなっていた。おいなあ聞いてんのか、と半分自分で確認するように言い続けていたら、「うるさい、声でかい兄ちゃん。もう酔っ払ってんの」と妹に睨まれた。そうか、とりあえず聞こえてはいるんだな、と思う。
「おい、あんた、どこに住んでんの。家どこ」
犬を真っ直ぐ指さす。犬はゆたかの指先をちらりと見て、市内、と答えた。
「そうなんだー」
と妹は言う。
「それも知らねえのかよ!」
ゆたかは突き出した指を犬から妹へと移動させた。
「だから声でかいよ。うざい、この酔っ払い」
「うざいって言うな。兄ちゃんはうざいって言葉がだいっ嫌いなんだ」
「あっそ」
妹はつんと鼻を横に向ける。
「だいたいお前な、兄ちゃんに対するその態度はなんだ。少しは感謝の気持ちとか思いやる気持ちとかないのか」
「ああそうね、ごめんなさいね」
最初のコメントを投稿しよう!