祝部羽子の思考

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祝部羽子の思考

 死んだら自然に還りたい、そんなありがちな台詞を吐く幼馴染みに溜息を吐いたのは、人生で何度だっただろうか。  久々に感じる彼女の体重は、記憶の中よりもずっと軽かった。ふと、脚を怪我した彼女をおぶって家まで連れて帰った日のことを思い出す。あの時も彼女は、このままこの街では無い何処かに連れて行ってくれと無茶なことを言っていた。  いつからそうだったかは覚えていないが、彼女のわがままを聞くのは、何時でも何処でも私の仕事だった。だから当然の帰結として、これからまた、私は彼女を望む場所まで運ばなくてはならない。もはやいつからかは思い出せないが、随分前から、そう言う約束だったはずだ。  まず旅の荷物を詰める鞄を買わなくてはならない。彼女は妥協を許さないだろうから、長旅になるだろう。子供の頃、いつか二人で行こうと約束していた小旅行用の鞄では、到底足りないだろう。  そう思って財布の中の金銭を数えているうちに、自分がそれほど面倒がっていないことに気付いた。手のひらに収まるほどになった彼女は、からからと転がって笑った。死んでるくせに笑うなと小突きたかったが、彼女が骨壺から零れると拾い集めるのが大変そうなので、すんでの所で思いとどまった。
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