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床の冷たさで目が覚めた。子供の頃、まだ颯子が病院の住人と化す前の夢を見た。
いつからそうだったのか聞いたことは無いが、私と知り合った時にはすでに颯子は病気だった。病名は当時の私には難しくて覚えられ無かったが、完治する見込みの無い物であると言うことは割と早くから理解していたように思う。
一緒に遊び始めた頃には、家にいる時間と病院にいる時間は前者の方が長かったのだが、成長するにつれていつしか半々になり、そのうちに逆転した。仲良くなってから初めての長期入院の時、もう和子ちゃんのサンドイッチ食べられないかも、ごめんね、と珍しく泣いていた颯子の顔は良く覚えている。颯子が泣くのを見たのはその時だけだったからかもしれないが。
また、その言葉に安心した自分自身のことをそれ以上に印象深く覚えている。
私の作ったものを食べた日に容態が急変したりしたら、まるで私のせいみたいじゃないか。そしてそのまま死んだら、いよいよ寝覚めが悪いじゃないか。だから、もう自分の作った物を食べさせなくて良いならその方が良い。ちゃんと病院の人が治療のために作った料理を食べていた方が、病気も良くなるに決まっている。そう思っていた。でも接した実感として、颯子は私の料理を食べていた頃の方が元気だった。
こんな不味い料理を食べさせられ続けるなら、病気の前にストレスで死んじゃう。颯子はそう言うときも笑っていた。だから私は、病院食って本当に体に良いものだったんだろうか、と今更になって思うのだ。治る見込みの無い患者を生かし続けておくのは、病院の人件圧迫に繋がる。だったら、わざと不味い料理を出して患者の生への執着を無くした方が病院にとってプラスになる。もっと簡単に、毒を混ぜたって良い。
そんなものを食べ続けた颯子の骨は、その髄まで毒が染み込んでいるのかもしれない。人一人殺すほどでは無くとも、植物ぐらいなら枯らせるほど。そう思って、骨壺から一欠片を取り出して、磨り潰して、荒れ放題になっているあの庭に撒いた。特に何も起きなかった。
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