第2話 ほろ苦い音

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第2話 ほろ苦い音

 「プルルル」「リーン」「ブルブルブル」「プープープー」  足立は過去の苦い経験を思い出していた。オフィス電話の外線や内線、PHSなどが一斉に鳴り響いていた。  3年前のトラブルでは、関係部署や上司、お客様からの電話応対をしながら、システムトラブルの調査を行い、後手後手に回っていた。原因がすぐにわからず、被害は拡大しつづけ、影響調査の範囲も広がっていく。負の連鎖に陥っていた。あの時の電話の音は忘れられない。  「ガチャーン」  相手の電話の受話器をたたきつける音が耳に残っている。社内の営業担当からの問い合わせに、何も答えることができず、モタモタしていたら一方的に電話を切られてしまった。緊急事態で冷静さを保つことの難しさを学んだ。怒っても解決はしない。  「パチパチパチ」「タカタカタカ」「カチャカチャカチャ」  会議室で約30名が電卓で手計算をしている光景を思い出した。手数料計算プログラムにバグがあり、そのリカバリー対応として人海戦術で最終検証を行っていた。たった一か所のプログラムミスが原因だったが、膨大な時間と労力を失ってしまった。  過去のトラブルの音を思い出すたびに、緊張感で身が引き締まる。頭の中で「あそこは確認OK。ここも大丈夫」と準備内容を振り返り、雑音を消していった。
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