第3話 沈黙の数分間

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第3話 沈黙の数分間

 Y2K問題とは、2000年問題のことである。Year 2000 2キロのK  コンピューター内部のプログラムが、西暦2000年になると誤作動を起こしてしまうという問題である。古いコンピューターでは処理能力やメモリ、ハードディスクなどの容量が小さかったため、西暦の上2桁を省略し、下2桁だけで取り扱っていた。1999年までは問題が起きないが、2000年になると、たとえば日付の並び替えができなくなってしまう。昇順の処理では、00年が先頭になってしまう。  システム改修は約1年がかりの対応であった。1970年代から機能を追加していったシステムは、至る所に日付項目があり、1つ1つプログラムを修正していった。  「昔の人はなんで、こんなことに気づかなかったのだろうか」と思ったり、「限られた資源を節約してやりくりする努力はすごい」と思い直したりしながら、プログラム修正とテストを進めていった。  足立は、Y2Kプロジェクトの中間地点で行った有識者レビューでの『沈黙の数分間』を思い出していた。  レビューアから「このプログラムの修正部分はどこに影響があるの?すべて押さえている?」という質問に対して、即答することができなかった。プログラムに日付があるところを見つけ、2桁を4桁へ拡張する変更を、機械的に作業していたため、影響範囲を想像することもできなかった。  システムを人体に例えると、今回の対応は体中にある血管を拡張していく処置に近い。太い血管もあれば、細い血管もある。重要な臓器につながっている血管もあれば、複数並行している血管もある。血管の末端がどこなのか把握せずに処置していくと、予期せぬ不具合が発生してしまう。  レビュー会のあと、半年間かけて修正したプログラムを今一度、再調査していった。1つ1つ確認していくと、プログラムとプログラムの関連性がつながっていき、機能やシステム全体の流れがわかっていくような感覚になっていった。  足立は『本質を考えて仕事をする』きっかけとなった、沈黙の数分間を思い返し、仕事に向き合っていった。
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