Strelitziaを抱きしめて

1/16
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 それは、ある秋の夜のことだった。夏の背中を恋しがる秋が世界を橙色に染めていって、気がつけば開きっぱなしの窓から入り込んだ冷たい風が中途半端に閉められたカーテンを揺らしていた。 「これで、終わりにしよっか」  ごみごみとした都会から各駅停車で40分程度、東京都のはしっこにあるアパートの3階の角部屋。ダイニングテーブルもベッドも置かれているその部屋で、そう言った歩夢(あゆむ)は、とてもとても寂しそうな顔をしていた。 「どうして」  そんなことを言うの、という言葉は、望未(のぞみ)の喉の奥に貼りついて出てこなかった。数秒間、風の音だけがその場を支配した。どこか遠くで、リリリリ、と虫の声がした。  目を見開いた望未から視線を逸らした歩夢は小さく呟いた。 「この曲が通らなかったら、もう受け入れるしかないと思うんだよね」  そのまま、歩夢は、緑色の文字でエントリーが完了しました、と表示されているPCの画面をじっと見つめる。その画面に記載されている発表日の日付は明日。それを眺める歩夢のまなざしは、PCから出ている人工的な光を取り込んでしまったかのように冷ややかだった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!