Strelitziaを抱きしめて

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 そうして気がつけば、最近の流行に合わせて無理に好きでもない曲調にしている自分に気づくこともしばしばだった。  そんなことがしたいんじゃない。  もっとやりたいことがあった。思い描いていた“Strelitzia”があった。  だけれども、自分が本当にしたいことがわからない。  わからないからこそ、自分の価値を他人に求めてしまった。  それからはもう、ただただ評価に怯える毎日。 「最近は、曲をつくるのが、もう――……苦しい」  歩夢の吐き出した重たい感情を、窓から吹き込んだ風が攫って舞い上げる。しん、と沈黙が部屋を支配した。気がつけばどこかで鳴いていた虫の声も、聴こえなくなっていた。  数秒後、沈黙を割るように口を開いたのは歩夢ではなく望未だった。 「ねぇ、」  望未は、じっと歩夢を見据えて言葉を紡ぐ。 「歩夢は、何のために曲をつくっているの」  初めは、楽しかった。歩夢は、難しいことなど何も考えずに、自分の思うままに曲をつくっていた。  “自分の曲が、誰かの夢に、そして希望に”  確かに歩夢は、その一心で自分の感情を紡ぎ出していた。自分たちに“Strelitzia”――輝かしい未来、という花言葉を持つ花の名前をつけたのも、歩夢だった。
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