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「だから、歌うんじゃん」
歩夢が叫んだ声にかぶせるように、望未がまっすぐに言葉を落とした。その声色の強さに、歩夢は小さく息を吸った。
「……苦しくて、辛くて、自分に価値がないみたいに思える――……そういうときこそ、わたしは歌いたいって思う」
生きていく中で感じるたくさんの想い。心の中に泥みたいに沈殿した感情。
誰にでもある、思い通りにならない悔しさ。
「苦しさとか不安とか……そういうの、全部糧にして曲を歌いあげることが、きっとわたしができる唯一のことだから」
スエットの上で握りしめられた、望未の手。強く握られた所為か、その節々は白くなっている。
「世界のどこかに、自分と同じ気持ちを抱えている人がいると思うんだ」
だって、何かに命をかけている人なんて、それこそ星の数ほどいるでしょ。そう言って望未はそっと望未自身に両腕を回して抱き締める。
「わたしは、歩夢の曲が、そういう人たちに届いて欲しいって思ってる。世界の誰かの傷を、わたしの声で、歩夢の曲で、そっと抱きしめてあげたい」
落とされた望未の言葉に、歩夢は息をのんだ。
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