山道の怪 03

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しかし、そんな和やかな雰囲気も束の間のことだった。 獣道を出て、歩きやすくなったと思ったのは最初だけで、実はこの山道こそ、かなり大変だった。頻繁に上り下りがあるので、とにかく疲れてしまい、体のあちこちから汗が噴き出していた。いくら冷ややかな山の中とはいえ、來羽は暑くて仕方がなかった。 「…ちょっと休憩しない?」 最初に音を上げたのは実乃だった。彼女は体が細く山登り経験もないため、無理もなかった。 「この道に入ってまだそんなに経ってないで?神社も見えてへんし、もうちょっと行こ」 四人の中で、鷲江だけが唯一余裕のある表情を浮かべていた。 「どこまで行ったら終わりなの、これ。あの煙もさ、全然近くなってる気がしないし、全く進んでないんじゃないの?」 楓も文句をこぼし始める。 「山の中の景色なんて、どこも一緒やから進んでないように見えるだけやと思うよ。ちゃんと煙の方には近づいてるし、大丈夫やよ」 鷲江は楓をそう言って慰めると、そのまま山道を進み続けた。 來羽は息を切らしながらも何とか歩いていたが、いくらも歩かないうちに楓や実乃が『休憩しよう』と言って止まってしまうので、その速度はかなり遅かった。だが、最後尾に比較的体力のある來羽がいたことが幸いし、來羽が後ろから鼓舞する形で、何とか歩を進めていた。 山道に出てから一時間程経ったところで、流石の鷲江にも疲れが見え始めたため、一度15分の休みを設けようという話になった。 「…はあ、もう疲れたよ、いつになったら着くの」 楓は疲れの余りに疲れたのか、山道に思い切り寝転がっている。 「確かに、ここは大変な道のりやけど…」 鷲江が口ごもったので、來羽は問いたげな視線を彼女に送る。 「…こんなところを、ほんまに桜は歩いたんやろうか」 「…どういうこと?」 「桜の話から考えて、あの子が昨日通ったんはこの道で間違いないとは思うねんけど、こんな物凄い山道を往復したっていうのは、ちょっと考えにくいと思わへん?」 鷲江の指摘は的を得ていた。今のところ神社も見えていないため、桜子はこの道を往復したことになる。桜子は特に体育会系という訳ではないから、普通の体力では間違いなく疲れてしまう。しかし、夕食の際には、そんな話は一切していなかったし、疲れているようにも見えなかった。 「それに、まだ桜だけやったらええけど、あの子の話やと、小さな女の子もこの道を通ったことになる訳やから、ますますおかしいと思うねん」
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