序章

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そんな不審を抱えながら、夕刻、仕事から帰宅した清一に手紙と原稿について説明した。 「ほほぉ。原稿か。中々、面白そうじゃないか。是非とも読みたいね」 米子と違って清一は、興味津々といった様子だった。 「お前はもう読んだのか?」 「いや、まだ読んでませんが、ちょっと怪しいと思いませんか?この手紙にしても、原稿にしても」 米子はやんわりと引き留めようとしたが、 「そんな細かいことはどうでも良いじゃないか。差出人の名前がないだなんて、余計に面白いじゃないか。さあ、読もう読もう。まずは、こいつから行くか」 と言って、清一は嬉しそうに原稿の束から一部を取り出した。 しまったな、と米子は思った。清一は作家の性分なのか、すぐにこの手の話に食いつく癖があるのだ。 「おい、どこへ行く」 説得は無理だと諦めて夕飯の支度をしようと台所に向かったところを、清一に呼び止められた。 「お前も一緒に読みなさい」 これも、清一の悪い癖だった。何でも米子を巻き込もうとするのだ。映画でも本でも、自分の見たもの読んだものを必ず米子にも押し付けようとする。本来は断りたいところだが、嫌です、と言うとすごく清一は残念そうな顔をするので、いつも仕方なく引き受けていた。 「…まあ、良いですけど」 今回も米子は胸騒ぎがしながらも、清一の提案を承諾してしまう。 かくして、煎田夫妻は共に怪しげな原稿を読むことになったのだった。 以下に記すのは、その原稿の内容だ。 全て、原文をそのまま掲載しているが、タイトルについては便宜上、作家である清一が命名したものを記載している。
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