山道の怪 01

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藤原來羽は、ちょうど22になる年の夏に、友人の後田実乃(うしろだみの)に誘われて、J地方の別荘に、海月楓(かいづきかえで)斑鳩鷲江(いかるがわしえ)四谷桜子(よつやさくらこ)を伴って向かったのだった。 この年は大学最後の年であり、全員が就職に向けて順調に進んでいたので、正直、アルバイトを詰め込まない限りはこの夏は五人の誰もが時間を持て余してしまうな、と感じていた。 それを見越した実乃が、この夏に自分が持っている別荘に一週間遊びに来ないか、と四人を誘った。來羽、楓、実乃、鷲江、桜子の五人は中学時代からの付き合いで、來羽の中高時代といえば、この四人の誰かと常に行動を共にしていたことしか覚えていない、という仲だった。 五人が通っていたのは私立の中高一貫校で、ある程度の経済力を持った家庭にそれぞれが生まれていたのだが、実乃だけは本当に別格の存在だった。 中学時代、実乃に誘われて彼女の家を訪問したことがあるのだが、あまりの豪邸ぶりに腰を抜かしてしまった程で、それ以降來羽は、実乃だけは自宅に誘うことができなくなってしまった。 そんな裕福な家庭の生まれで、更に何とも言えない天使のような愛嬌を持った実乃に比べると、來羽や他の三人は彼女程の経済力もなく、そこまで派手ではないため、メンバーの中では浮いているようにも感じるかもしれないが、実乃は全くそういう雰囲気を感じさせない少女だった。 誰が見ても裕福なのに、『お金持ち』という自覚がないらしく、全く威張る素振りも見せない、何とも健気な少女だった。 とはいえ、彼女の財力は本物なので、両親は高級車やクルーザーを何台も所持しているし、別荘も当たり前のように各地に持っていた。 今回來羽を含めた四人が招待されたのは、J地方のG山地にある貸別荘だった。ここを買ったのは実乃の叔母にあたる人物で、G山地の冷涼な雰囲気を気に入り、即決したのだという。
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