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「…別荘って、結構な山奥にあるんやね」
驚いたように、助手席に座る鷲江が関西弁の抜けきらない言葉で呟いた。鷲江はこのメンバーのまとめ役で、小学校まで住んでいた関西弁が未だに抜けきらないでいるのだが、それが何とも愛らしかった。
実乃の運転するバンは、別荘の最寄り町であるH町を抜けようとしていた。H町は必要な食料や日用品を買うために立ち寄ったスーパーマーケットのあるあたりこそは比較的賑やかだったが、中心部を離れるにつれ、その景色は、なんとも物淋しい眺めに変わっていった。
來羽はこの時点ではさほど不安は感じていなかったが、バンがナビに従って町を通り過ぎて山道に入り、どんどん山奥に入るにつれて、妙な胸騒ぎが起こったのだった。もちろん、別荘というものが、人が溢れるような場所に建てられているものでないということくらいは承知しているし、騒がしい町から遠ざかる環境というのも悪くないとは考えていたのだが、実際に来てみると、やはり不安を感じずにはいられなかった。
車はそんな來羽の不安を増長させるかのように、両側に鬱蒼と樹木が生い茂る狭くて薄暗い山道を辿ってゆくのだった。
「なんか、ちょっと、怖いかも…」
そう口を開いたのは、怖がりの楓だった。楓は小学校も同じで、四人の中で來羽と最も長い付き合いだ。
「そう?私はこういうの、好きだけどなー」
鷲江、來羽、楓の三人が一様に不安げな顔を浮かべるのに対し、意外だ、という様子で、実乃が首を傾げる。
「鷲江なんかは、山登り好きだし、慣れてるんじゃないの?」
「それはそうやけどさ、山ってさ、何かこう、入ったら独特の空気みたいなんが漂ってるの分からへん?」
「独特の空気?」
「そうそう。何ていうか、町とは全然違う空間やな、って、入った瞬間にならへん?」
「それってさ、単に静かなだけなんじゃないの?」
いつから会話を聞いていたのか、桜子が口を挟む。いつから、というのは、彼女がヘッドフォンを付けていたからで、到底会話を聞いているようには思えなかったからだ。
桜子は静か、というよりも完全なマイペースで、皆で食事をしている時も、会話に基本的に参加せず、独りで音楽を聴いているような少女だった。そんな感じなので、メンバーからは少し浮いているが、いざという時には頼りになることもあるので、他の三人も、特に彼女を疎ましがるようなことはなかった。
「うーん、静かっていうよりは、異世界って感じやなぁ…」
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