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「なにこれ!どういうことっ!?」  思わず、すっとんきょんな声が出てしまった。だってだって! 「ちょっと待ってっ」  ほんの1分前、借りていたウィンドブレーカーを返し、お世話になりました。という礼儀を通してその背を見送ったばかりの男を追いかけ、その腕を掴んで強引にバス停まで引き戻した。 「おいこら。おまえ、なんのつも、」 「圭吾っ!これ見て!!」  美空は掴んだ腕を離さぬまま、もう片方の手でバスの時刻表を指差した。 「時刻表がなんだよ」  不機嫌な低い声に美空は泣きそうになる。だって見てよこれ。 「運休ってどういうこと……?」 「あ?」  圭吾が片目を細めた。そして無言。だよね。無言になるよね。金、土、日が運休のバスなんてある?あるの??なんのために?? 「あるから運休なんだろ。理由はバス会社に訊け。大方、利用者がほとんどいないってのが理由だろ。つーか気づけよ。昨日バス利用したんだろ」 「昨日どころか、その前もその前も、むしろ月曜の初日から利用してた」  お願いだから深いため息やめて。こんな小さい字、気づかないよ。しかも薄くなってるし。だからため息。美空はむうっと男を見上げた。 「困るのは圭吾も一緒でしょ。バス来ないんだよ?駅までどれぐらいあると思ってるの?まあよくわからないけど、とんでもない距離だってことはわかる!」  そう息巻くも、圭吾の反応がいまいち薄い。美空は首を傾げた。 「圭吾、もしかしてバス乗らないの?」  無言だ。 「え、もしかして、家この辺?」 「いや……」  歯切れが悪い。 「あ、タクシー呼ぼうと思ってる?けど、ここじゃ無理だよ?バスの運転手さんがいってた」 「圏外なんだろ。そんなもん知ってる。外部と連絡を取るツールは、さっきの山小屋にある無線機だけだ」 「そんなのあったんだ」 「あったな」 「もしかして小屋に戻る感じ?」  そして救助を呼ぶ? 「え、やだ」 「だろうな」  なんだか嬉しくない肯定だ。ちょっと睨んでやると、三度目のため息。そして頭をガシガシとかいたのち、圭吾は投げやりに息をついた。 「状況はわかった。とりあえず腕を離せ。そしてついてこい」  いわれたとおりにすると、圭吾が歩き出した。バス停を背にして向かった先は、山小屋とは反対方向。道路を少しくだり右に折れた。そこはただの空き地。草だらけ。そして車が一台。  ピピと音がして車の両脇がオレンジに光る。どうやら鍵を開けたらしい。この男が。これはもしかしなくてもそういうことだ。 「乗れ」  なるほど。バスもタクシーも必要なかったのだ。慌てる素振りがなかったのもうなずける。でも。 「いいの?」  大きな黒い車を見つめて、おずおずと問いかける。バッグドアを開けて荷物を積んでいた圭吾が短く笑った。 「ここでそれか。急に殊勝になられても気持ち悪いだけだ。いいから乗れ」  男の酷い言い草は今日も現在だ。そして優しさもお人好しなところも。 「えっと、あの、……ありがとう」  初めて、そういった。
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