01-2

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 あとになって思った。ありがとうと、もっと沢山いえばよかった。もっともっと沢山。後悔していることがあるとするならば、きっとそれだ。 「宿泊先はどこだ」 「ここって本当に山奥なんだね。山と空しか見えない」  駅まで繋がる道路は一応国道らしいが、時折避難ゾーンがあるだけで、他はなにもない。どこまでも続く山々が広がっている。 「どこだ」 「山道ってカーブ多いよね。私には運転できないと思う。ううん絶対無理。まあ、免許もってないけど」  右、左、そしてまた右に左。目が回りそうな道のりは山特有のものだとか。気のいいバスの運転手さんの話を聞きながら、ジェットコースターってこんな感じだろうかと思ったものだ。 「……どこだ」 「圭吾って運転上手いんだね。全然ガクガクいわないもん」  はっきりいってバスは怖かった。手すりに縋りついていないと転がりそうだったし、思わず目をつぶったときもあった。運転手さんが不慣れというわけではなく、おそらくその反対。慣れきった道だからこその荒々しさだと美空は感じていた。けど圭吾の運転は少しも怖くない。 「……わかった。このまま近くの駅に、」 「ねえ圭吾。お腹すかない?すいてるよね?昨日のカレーは半分だけだし、朝ごはんもまだだし、どこかで食べよ?私、ご馳走する」  ね?と窓の向こうから視線を戻して、にこりと笑んだ。 「いや、いい。おまえは駅に、」  そこできゅーと音が鳴った。わりと広めな車内だが人間は二人のみ。どちらのお腹から聞こえたのか、確かめるまでもない。  ちらりと視線を向けると、運転席の男は苦虫を噛み潰したような顔で前を睨んでいる。なにもそんな顔しなくても。恥ずかしかったのかな。美空は吹き出しそうになる。 「お店、圭吾が選んでいいよ?」  声に笑いが混じってしまったのはご愛嬌。隣から舌打ちが聞こえたのはきっと気のせい。 「なにが食べたい?やっぱりガッツリ系?」  返事がないので、隣にいる男の顔をのぞきこんだ。 「ね、なに食べる?食べるでしょ?お腹すいてるでしょ?すいているよね?」  じいいいと見つめていると、心底忌々しい顔をした男の口がようやく開いた。 「……勝手に決めろ」 「うん。勝手に決める」  美空は笑いを堪えながら乗り出していた体を戻すと、お店を検索するため圏外から脱したスマホを取り出した。
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