02-3

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 会場を出黙った早苗と裕介が向かった先は、このあと行く予定になっていたカフェではなく駅。混み合う電車内で運良く座れた二人は無言のままだ。  早苗は個展会場の出口に設けられていたショップで購入した雑誌をぱらりと開いた。そしてぐっと眉をひそめる。 「……なによこれ」  つぶやいた途端、ぽたりとそれが落ちた。混乱と疑問と推測。いろんな感情が入り混じり、とうとう早苗の目から涙がこぼれてしまった。そんな早苗を裕介は横目で見やり、涙で濡れてしまった手をそっと握る。 「泣くな。それから怒るなよ?」 「……わかってる」  そのまま二人は電車を乗り継ぎ目的の駅で降り立った。そこからバスで20分ほどの場所にそれはある。迷うことなく歩けるのは、何度か来たことがあるからだ。けど何度来ても早苗はここの空気が苦手だ。静かで冷たい。  そう思うのは場所柄ゆえか、それとも二度と会えないのだと実感させられる場所だからか。  整然と並ぶ墓石はどれもキレイで雰囲気は明るいが、ここは紛うことなく霊園で、幾人もの人間が永遠の眠りについている。  早苗は裕介を引き連れ霊園内を勇んで歩き、一つの墓石の前で立ち止まると、それを正面から見据えた。いや、睨んでいるといってもいい。 「聞いてないんですけどっ」 「さ、早苗」  裕介は慌てた。怒るなよといったはずなのに、早苗の眉はすでに釣り上がっている。 「あの写真の山に行ったのは知ってる。無事に帰ってきたのも知ってる。楽しかったって聞いたし、満足したとも聞いた。けどっ」  早苗は墓石を睨んだまま雑誌をぎゅと握り締めた。 「これどういうことっ。なんなのっ。聞いてないんだけどっ。これ、かなり大事なことだよねっ?なのに黙ったままでっ。親友だと思ってたのは私だけっ?ねえ、なんとかいったらどうなの美空!」 「早苗、少し落ち着けって。なにもいえないの見ればわかるだろ」 「だってっ!」  早苗の瞳はまた涙で潤みはじめた。 「あー、だから泣くなって」 「泣きたくもなるわよっ。だってなんなの、この子っ。こんな場所でっ、こんなとこでっ」  早苗は墓石を勢いよく指差した。正確には墓石の前に座っている人間をである。 「お饅頭を口一杯に頬張ってるとかっ!信じられないっ」 「まあ、だよなあ」  キーッとなっている早苗の横で裕介は頭をかいた。そんな二人をぽかんと見上げていた藤宮美空はその頬を饅頭でふくらましながら、いまいち状況が掴めず首を斜めにかしげたのであった。
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