02-3

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 病院、熱、疲れ、体調不良。そんな類のワードが出ると二人はすぐにこんな顔をする。それは二人だけじゃない。美空の病気を知る人間は皆、揃いも揃ってこうなる。高校卒業の夜に倒れてからは特に。そのとき病院まで付き添ってくれたのが早苗と裕介だった。だから尚更二人はすぐこんなふうになってしまう。  美空は笑って首を振った。 「大丈夫だよ。今日は定期検診に行っただけ。結果は良好。次は1ヶ月後でいいっていわれたよ」  もちろん異変がなければであるが。生涯飲まなければいけない新たな薬が加わり、わりと面倒で少し間違えれば深刻になりそうな注意事項が告げられ、本当は少しだけ落ち込んでいたりする。けどそれはいわないでおこうと思う。 「本当に?それならいいけど。でもそっか、手術は上手くいったんだもんね。なんかごめん。心配するのが癖になっちゃっててさ」  だってほら、早苗が眉を下げる。少々気が荒いが彼女はとても優しい。過剰に心配されたくない美空の心を知っているのだ。だから余計なことはいわないでおくのだ。美空は早苗の腕に抱きついた。 「なんで謝るの?いつも心配させて、こっちがごめんなのに。裕介くんもごめんね。でも二人ともありがと」  早苗とその向こうにいる裕介に笑ってみせる。だが裕介にじっと見つめ返され、美空はなんとなくヒヤリとしてしまう。そう、やんわりとした見かけによらず裕介は意外に鋭いのだ。 「ほんとに大丈夫だよ?」  念を押してみれば、藪蛇のごとく裕介の片目が僅かにすがめられた。だが早苗の視線を受けたことでそれはキレイに消滅し、いつもの笑顔にすり替わった。美空はひそやかに頬をひきつらせた。わかっていたが、この人やっぱり侮れないっ。 「べつに嘘だとは思ってないよ。でも無理だけはするなよ。なにかあったらすぐにいうこと」 「そうそう。なにかあったらすぐにいいなさいよ。あんたって意外に秘密主義なとこが、」  そこで止まった早苗は、そうよっ!忘れるとこだった!!と叫び美空の肩をガツッと掴んだ。 「ええっ、なによ急に」 「急じゃないからっ。むしろ、なにしに来たんだって感じだからっ。ちょっと美空!私に隠してることあるでしょっ!これどういうことっ」  早苗は目的の雑誌を美空の目の前に突きつけた。写真月刊誌フォトシック。その表紙を見た美空は固まった。  なぜなら、表紙を飾っているのは大事にしてきたあの写真だったから。未だ忘れられない男の名が記載されていたから。それを早苗が緊急と称して持ってきた意味。撮影者が判明した喜びからでないことは顔つきでわかる。 「桜井圭吾。美空がずっと大事にしてきた写真を撮った人。知ってるよね?」  断言された。美空は悩んで悩んで唇を噛んだのち、小さく頷いた。  忘れようとしているのに忘れられない男。忘れなくちゃいけないのに少しも色褪せてくれない男。  あの三日間を終えたあと、パソコンもスマホもいじらなくなった。テレビは元々見ないから、それだけで世間の情報からおいてきぼりとなった。けど、どこかで男の名を見かけてしまうよりいいと思った。偶然なんて腐るほどある。あの男がいったように偶然見つけてしまったら、もっと忘れられなくなるとわかっていたから。それなのにーー。  親友によって目の前に現れた男の名前を指でなぞる。それだけで胸が熱くなった。 「美空、話してくれるよね?できれば正直に話してほしい。そうしないと私の考えもまとまらないから」  早苗の真剣な声に美空はもう一度、頷いた。  
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