02-4

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 数ヶ月ぶりに見る男は痩せたわけでも太ったわけでもなく、低い声も投げやりな口調でさえなに一つ変わらぬというのに、美空の知る男ではなかった。吐き出す言葉が違う。その響きが違う。なにより眼差しが違う。その美しき琥珀。狼の目。 「……なによ」  美空は顎を引くと、潤む瞳にグッと力を入れて上目遣いに圭吾を睨んだ。圭吾はわずかに首を傾げる。 「なにがだよ」 「なにがって、だって……」  圭吾にじっと見つめられ、美空は視線を泳がしながらうつむくと両手をこねくり回した。その頬は赤く、そんな美空に圭吾は小さく笑う。 「だってなんだよ」  低い声。その響きに美空はううと唸った。おかしい。絶対におかしい。こんなの圭吾じゃ。 「美空?」  美空はカッと頬をほてらせた。やだうそ。なんで。どんどん熱くなっていく頬を両手で押さえると、圭吾がさらに笑う。 「どうした」 「どうしたって……」  美空はとうとう我慢できず、真っ赤な顔で圭吾を再び睨みつけた。 「どうしたじゃないわよっ。なんで?なんで急にそんなんなのっ?こんな個展を開いちゃって私のことキレイとかいっちゃうし、名前呼びもさらっとしちゃうし、その言い方がなんかっ」 「言い方?変だったか?」  変じゃない。変じゃないから困るのだ。 「……なんか声が違う」 「声?違わねえだろ」 「違わないんだけど違うの!」 「なんだよそれ」  可笑しげに笑う圭吾のこちらを見る眼差しはやはり変わらない。振り向いたときからずっと同じ。美空は思わず指差してしまった。 「ほらその目っ。それが一番違うっ。なんで?なんでそんなに優しい目でこっち見るのっ?声だってずっと優しいしっ。お、おかしいでしょっ。そんなの、そんなの圭吾じゃない!」 「はあ?」  圭吾は目を丸くしたのち、おまえなぁと項垂れた。 「俺の印象どんなだよ」 「無愛想でぶっきらぼう」  反射的に答えてしまった美空ははっとしたのちうつむくと、そのあとを小さく付け足した。 「……でもすごく、優しい」  ぼそりとつぶやくと、頭の上で低くも優しい笑い声。 「なら、おかしくねえだろ」 「お、おかしいよっ。ここが東京だからっ?だからなのっ?」 「なにいってんだ。東京とか関係ねえだろ。まあでも、おまえのいいたいことはわかる。べつにおかしくなったわけじゃない。自覚しただけだ」 「自覚?」  そろりと顔を上げれば、圭吾がやはり優しく美空を見下ろしている。 「なにを……?」 「おまえに惚れてる自覚」  圭吾の告白に美空は目を見開いて固まった。
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